女性「9条の会」ニュース61 号 2026 年1月号
1面
被爆高市政権の行き着く先
自由法曹団 弁護士 中野 和子
安倍元首相の亡霊を背負って登場した高市政権ですが、日本の最大の貿易国である中国との関係悪化については修復の兆しはありません。
関係悪化の原因となった「存立危機事態」発言は、高市氏が首相になる前から「台湾有事は日本有事」を持論としていました。
「存立危機事態」とは、2013年成立の安保法制に定義された法律用語です。これには「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。」と定義されています。
定義にあてはまるかを検討すると、まず「我が国と密接な関係にある他国」とはどこか。台湾そのものは国ではないので定義を充たさないでしょう。日米安保条約があるので、まず米国でしょうね。米国は1979年に台湾と断交したものの台湾関係法を制定し、台湾に防衛的性格の武器を供与すること、台湾を脅かす武力や強制に対抗するための「米国の能力を維持する」という「あいまい路線」を継続してきました。つまり、この法律の下では、米国が台湾海峡に軍事力を展開するかどうかは不明なのです。2025年 月2日に成立した台湾保証実施法でも、ここに変更はありません。
また、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」とはどのような場合でしょうか。台湾と中国が武力で揉めた場合に、「根底から覆される明白な危険」があるでしょうか。高市首相は、9月の総裁選で与那国島を挙げていますが、場所が違いますね。台湾海峡で仮に武力衝突があっても、台湾島の反対側にある与那国島には、日本が介入しない限り何も生じないでしょう。このように、法律が定めた定義を精緻に検討すると、いわゆる台湾有事と言われているものが、「それはもう存立危機事態にあたる」とはいえないのです。
法治国家というのであれば、高市首相は法律に基づいた答弁をなすべきであり、撤回すべきです。それができないのであれば総理大臣の資格はないといえるでしょう。
仮に米国の代わりに日本に台湾海峡に行くというのでは、もう憲法違反そのもの発言であり、官邸補佐官あたりに言わせたと推測される「核をもつべきだ」発言と併せて、総理大臣に高市氏を置いておくわけにはいかないということになります。
補正予算は、 兆円も組み、そのうち ・7兆円が国債発行でまかなうものです。軍事費 兆円も国債でまかなっています。日銀が金利を少し上げても円安は止まりません。日本の国民は、物価高で生活を脅かされているので、高市政権のこの「無責任な積極財政」を受け入れることはできません。現在の物価高は安倍政権下の「黒田バズーカ」と言われるゼロ金利政策の放置によって円安が進行していることが主な原因です。
高市政権は、トランプ大統領を後ろ盾にして、自民党政治を継続させようとしていますが、インフレを放置して実質的増税を行い、国民の生活を大破綻させるでしょう。そして、世論操作を続けていくことで、憲法9条を捨て、「スパイ防止法」を成立させ、軍事産業で稼ぐしかない軍事国家への道、戦争を目指す国へと行き着くでしょう。
私たちの生活を守るためには、この高市自維政権を早く終わらせるために行動するしかありません。
2面〜8面 女性「九条の会」学習座談会報告
日時 2025年11月30日 14:00〜 於 練馬区立産業会館
自衛隊におけるハラスメントについて
~市民とジェンダーの視点で~
講師 武井由起子さん
私は、 年間伊藤忠商事で女性総合職として働いたあと、2010年に弁護士になりました。現在は八重洲グローカル法律事務所で、離婚・相続などの家事事件、不動産、企業法務などを担当しています。
また、日弁連や第一東京弁護士会で憲法問題に取り組み、「明日の自由を守る若手弁護士の会」での憲法カフェや、「ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン」でも活動しています。
一児の母でもあります。
2011年の原発事故をきっかけに、「政治や社会に無関心でいられても、無関係でははいられない、私たち大人が子どもに手渡せる未来をつくる責任がある」と気づいて今日に至ります。
私は、憲法カフェは、政治や社会を自分ゴトにするきっかけと考えています。そして、明るく楽しくわかりやすく、会社員時代に中国で暮らしたり世界各地で仕事をして得た視点や、アメリカの元兵士たちから聞いた戦争のリアリティもお伝えします。これまで、最高で週5回、日本の北から南まで、海外もアメリカ、ロンドン、パリ、カフェはもちろん、イタリアン、小学校、中学校、高校、大学、PТA、病院、助産院、八百屋、パン屋さん、公園・・・茶道や憲法とのコラボも含め、いろいろなところでジェンダーや50G3のお話会や、さまざまな団体やイベント、相談会などにも関わり、特に女性や弱い立場の人の支援に力を入れています。
◆自衛隊と人権の問題について
ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン((平和を求める元自衛官と市民の会)では、事務局として、帰還兵のPТSD、自殺、薬物依存などを取り上げてきました。
今日は、
1、自衛隊の人員状況
2、自衛隊員のハラスメントに関するアンケート結果
3、実際のセクハラ訴訟のケース
4、市民・ジェンダーの視点から見た問題点
についてお話したいと思います。
自衛隊の人員状況
自衛隊は定員約24万7000人に対し、実際は約22万人で、特に体力を必要とする若手の充足率が低くなっています。
対策として26歳から34歳までに自衛官の採用年齢を引き上げ、予備自衛官を37歳未満から55歳未満へ引き上げや、女性の採用拡大などが行われています。また、一般人を即応予備自衛官にする、任期付自衛官が大学進学の際、予備役への登録を条件に学費補助を行う、無理に入隊させ退職認めない(自衛隊法40条)、性的な募集ポスターなど問題のある手法も見られます。
◆自衛隊アンケートの結果
私たち自衛官の人権弁護団では、自衛隊員のハラスメント被害に関するアンケートを、ウェブで実施しました。
回答対象者は、自衛官(予備自衛官含む)74名(65・5%)
・元自衛官28名(24・8%)
・防衛省事務官・技官など10名(8・8%)
・防衛大学校などの学生・教官など1名(0・9%)
・性別は、男性90名(81・1%)、
・女性20名(18%)
・被害当時の年齢は10代3名、20 代28名、30代29 名 、40代33 名 、50代14名
回答者の約9割が自衛官または元自衛官で、ハラスメントの8割以上がパワハラで、セクハラが9%、マタハラが2%でした。
調査を求めた 名のうち「加害者が処分されたのは3%」と極端に少ない一方、被害を訴えた人が逆に「不利益な配置転換をさせられる」などの嫌がらせを受けるケースも多くありました。
五ノ井さんが声を上げてからハラスメント防止の対策が取られていると防衛省は言っていますが、「今の取り組みは効果があると思うか」という問いに対して、「思わない」が89%もあり、また声を上げたものが不利益を受けるという「声をあげる人が罰せられる文化」が根強く残っていることが分かります。
女性の回答では、若い女性が深刻な性被害を受けているケースもあり、記述の中には「上司から、性的関係を結ぶなら3曹昇任させてやると言われ、断ったら頭を殴られた。その後、その上司に、夜勤の仮眠時に突然襲われレイプされてしまった。その上司は、他の女性たちにも同じことをしていると言っていた。」(陸自・女性)という記述もありました。
◆自衛隊セクハラ国賠訴訟の実例
実際に訴訟を担当したケースでは、被害者が勇気を出して訴えても、部隊内で無視されたり、逆にパワハラを受けたりするなど、二次被害が続きました。実例を上げますと、
2010 原告、入隊。那覇基地に着任早々、カウンターパートのAからセクハラ発言。
2011 セクハラ発言が続き、原告の交際相手が判明したことで、発言が悪化。
2013 1/ 、Aから電話で、荷物が届いていないことについて「交際相手とやりまくっているから」と罵られる(セクハラ行為)。A班長に報告、セクハラ相談員にも報告。
加害者と日常的に接点が続き、それに耐えて働いたため不眠に。隊長も総括班長も動かず無視。
団司令の秘書から「ハラスメントがあれば言って欲しい」とのことで申し出て調査開始。原告は、Aの書面謝罪、関係者処分、セクハラ防止教育を要望。
2014 隊長から「謝罪文を書かせるのか、相手には家庭があるが、異動がなくなる」と言われる。法務班に相談するが個人の問題は取り上げないと言われる。
弁護士から司令に要望通知。
原告に相談なく、二次加害的セクハラ教育を開始。厄介者扱いで不眠が悪化、半日入院。
同僚の当たりがきつくなりパワ
ハラを受けるようになり、異動させてもらう。
2016 原告はセクハラ認定を求めAを提訴。Aは名誉毀損で反訴した。組織の法務班はAを支援し、同僚 人が「セクハラはない」とする同文の陳述書を提出した。
2017 1審判決 双方の請求を棄却したが、Aのセクハラは概ね認定された。(原告敗訴の理由は公務員の不法行為は、本人ではなく国を訴えるべきというもの)。Aが控訴。原告は協力者から入手した組織内の調査資料を提出。控訴審判決、控訴棄却が確定し、1審と同様にAのセクハラが概ね認定された。
2018 原告は三曹に昇任したが、昇任妨害があったため同期で最も遅い昇任となった。
2019 原告が異動となりAと仕事などで日常的に顔を合わせる状況になった。
2022 Aは突如「戒告処分」となった(1月 日)。セクハラ行為の認定はできなかったものの、日常的な目撃情報があったためとされる。その後、Aは退職した。(1/ )
2022 Aの処分直後、原告は裁判に組織文書を提出したとして、情報流出の容疑で警務隊に告発された。警務隊の送致を受け検察官から取り調べを受けた結果、不起訴(起訴猶予)となった。
2022 原告は「個人情報および注意人事に該当する行政文書を協力者から入手し、自身の弁護士に提出した結果、誰でも閲覧できる状態にした」として訓戒となった 。一方、原告が隠蔽やパワハラで申し立てた 名全員は不処分となった 。さらに、原告がした公益通報により実施された調査で、圧迫的な面談があった 。
2023 原告は特別防衛監察に申し出た。
◆ジェンダーの視点・市民の視点
軍隊は「男らしさ」「女らしさ」という強いジェンダー観に支えられています。そのため、性暴力が軽視されやすく、被害者が声をあげづらい構造があります。
さらに、社会全体に目を向けると、日本ではDVや性暴力、貧困が深刻ですが、政治や制度は十分に対応できていません。
自衛隊の内部で起きている問題は、市民が知らないところで当事者が傷ついているという構造があります。
一方で、日本では、五ノ井さんのように声をあげた自衛官を支えようとする市民も多く、それは憲法の価値と深く結びついています。
憲法9条・ 条は公的な暴力も、私的な暴力も、どちらも許さないということであり、私達の心の中に、そのような憲法の価値観が確かに存在しているのです。
◆歴史から消されてきた女性兵士
日本では古くから「男は国を守り、女は家庭を守る」という役割分担が強く作られてきました。しかし実際には、すべての男性が戦闘に向いているわけではありませんし、女性にも古今東西、戦う女性は多く存在しました。
たとえば「八重の桜」にも描かれたように、女性兵士は歴史の中に確かにいたのに、後世では「いなかったこと」にされがちです。
ジェンダーというのは、個人の事情や個性を無視して、役割を押しつけるときにとても便利に使われてしまうのです。
◆軍隊とジェンダーの関係について
社会が「守るべき弱い存在」として女性や子どもを扱うジェンダー観をつくり出すことで、戦争は成り立ってきました。そしてその中で、多くの戦時性暴力が生まれてきたと言われています。ジェンダーは戦争の「原因」にも「結果」
にもなるもので、この仕組みに深く関わっています。
だからこそ、戦争や暴力を考えるときには、日常の中にあるジェンダーの問題とつなげて考えることが欠かせません。戦争は「日常の政治の延長」にあると言われるからです。
社会学者の佐藤文香さんは、「軍隊を動かすうえでジェンダーは欠かせないインフラだ」と語っています。
「男らしさ」「女らしさ」という
固定観念がなければ、軍隊は成立しにくく、戦争を遂行することも難しいというのです。さらに性暴力もまた、敵への憎悪を煽る手段として機能してきました。
◆ 唐突な「女子どもの保護」
安保法制の議論のとき、「米艦
船に乗ったお母さんと子どもを守れない」というフレーズが使われました。しかし、もし本気で「女性と子どもを守る」と言うのであれば、今の日本で多くのシングルマザーと子どもが貧困に苦しんでいる状況はどう説明されるのでしょうか。
実際に昨年の「共同親権」導入では、DVの危険性を訴える多くの当事者の声が無視されました。 DVや虐待がある場合の運用は 安保法制の議論のとき、「米艦船に乗ったお母さんと子どもを守れない」というフレーズが使われました。しかし、もし本気で「女性と子どもを守る」と言うのであれば、今の日本で多くのシングルマザーと子どもが貧困に苦しんでいる状況はどう説明されるのでしょうか。
実際に昨年の「共同親権」導入では、DVの危険性を訴える多くの当事者の声が無視されました。 DVや虐待がある場合の運用は極めて不透明で、子どもや被害者が危険にさらされる懸念がありま
す。暴力による被害はPTSDとして長く残り、本人だけでなく社会全体にも影響を与えます。
◆戦時性暴力は「原因」であり「結果」でもある
女性の身体はしばしば「領土の象徴として扱われます。敵兵に自国の女性がレイプされることは
「国が踏みにじられた」と同義とされ、そのため戦意を削ぐ「武器」として性暴力が利用されてきました。
アブグレイブ刑務所では、女性兵士がイスラム教徒の男性捕虜に性的な虐待を加えた事例もあります。これは「女性から受ける屈辱」のほうが、男性兵士が行うよりも心理的ダメージが大きいと考えられたためです。
男女の役割に関する強いジェンダー規範を使った残虐な行為です。
◆憲法9条と 条のつながり
9条は国家(公的)の暴力を禁止
条は家庭(私的)の暴力を禁止
かつての日本の戦争は、靖国的イデオロギーと、天皇を頂点とする家族制度が一体化して進められてきました。
ベアテ・シロタ・ゴードン氏は
「日本国憲法の平和条項と女性の権利を守ってほしい」との言葉をのこしています。9条が壊されれば、 条も危うくなると言われるのはそのためです。
最近の軍事化が著しい日本の状況は9条を破壊するもので、このような中で選択的夫婦別姓どころか、通称の法制化や、離婚後に別居親の許可がないと子どもの重要事項が決められない共同親権の導入は、それぞれ家父長制の表れであり、同時に 条も危うくなっていることを示すものです。
◆日本は本当に平和なのか
身近なところでは、たとえば家庭内暴力や性暴力は深刻な問題です。
また、今の日本でも貧困状態の子どもは少なくなく、5人に1人と言われていますが、その半分はひとり親家庭です。
◆家庭内暴力(DV)
• 3日に1人、妻が夫から殺されています。
• 成人女性の3人に1人はDVを経験しています。
• 20人に1人は命の危険を感じるほどの暴力を受けています。
• 2024年の神奈川県の調査では、離別した女性の54%が暴力を経験しています。
◆職場のハラスメント
• 働く女性の3割がセクハラ被害を 経験しており、そのうち2割は性的関係を求められる被害を受けています。
◆日本の「ホモソーシャル」政治
森喜朗氏の発言などに象徴されるように、日本の政治には「男同士の仲間意識」が強く残っており、そこにジェンダーの視点が欠けていまません。
そのため、面会交流を嫌がる母親が「不当だ」と扱われることも起きています。
でもこれは、PТSDの典型的な反応かもしれないのです。
◆社会はなぜ被害者の声を消そうとするの
心的外傷の研究者ジュディス・ハーマンはこう述べています。
「人はあまりに残酷な出来事に遭うと、『忘れたい』という気持ちと『伝えたい』という気持ちが戦う。
社会も同じで、戦争の被害者を忘れようとする力が働く。
心的外傷の研究はいつも、被害者の声を信じない圧力との戦いになる。被害者は本当に苦しんでいるのか詐病なのかというのがいまだに論争の中心となる。また、そ研究者も、その発言の信憑性に疑問が呈され、そして深入りすれば専門者仲間から蔑まれる。
だから、心的外傷の研究は、政治的状況に大きく左右される。戦争による心的外傷は、青年が戦争の被害者になることに異議を唱え
られる社会においてはじめて肯定され、性生活と家庭生活による外傷の研究は、女性と子どもを見下し、男性に服従して当然とする見解に抗う流れの中で肯定される。
つまり、人権を擁護する強い政治的な流れが欠けているところでは、声をあげることより、忘れてしまおうとする勢いが勝ってしまう」。
性的暴力や家庭内暴力の研究が進むのは、女性と子どもの人権を守る流れが強まったときだけです。
強い人権意識がなければ、声を上げるより「忘れよう」という力が勝ってしまうのです。
◆市民の視点━ 自衛隊員の人権と社会の距離
アメリカには「軍隊経験が一人前の証」という文化があります。一方、日本の自衛隊は非常に抑制的です。
しかしその分、隊員が傷ついていても、市民の側に「見えない」ままになりがちです。
アメリカではフェミニズムが「女性を徴兵登録に含めないのは差別」と言ってきました。それに対して、保守派が反対してきました。
日本は無風で、女性自衛官にさまざまな役割が与えられました。そうすると、女性自衛官がどんな目に遭ってもあなたが悪いと突き放してしまうことになりがちです。でも、五ノ井さんが性被害を訴えたとき、多くの市民が「それはおかしい」と声をあげました。
これは、日本社会に根強く流れる日本国憲法の価値観―人権を守り、命と尊厳を大切にする考え方の現れだと思います。
その声は、自衛隊員を過酷な状況から守ることにもつながります。
つまり、人権を守ることは、社会全体を軍事的緊張から遠ざけ、私たちの生活も守るのです。
◆憲法を灯火に
憲法前文の一節です。
「われらは平和を維持し、専制と 隷従、圧迫と偏狭を地上から永 遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位 を占めたいと思う。」
この言葉は、私たちがどんな社会をつくるべきか、その方向を示してくれています。
DVや性暴力の問題を直視し、弱い立場に置かれた人を支えることは、まさにこの理念の実現にほかなりません。
みなさんと一緒に、暴力のない社会をつくっていきたいと思います。
引き続きつながっていきましょう。