女性「9条の会」ニュース55 号 2023 年1月号

 

1面  

  憲法9条を守り活かすために                                                                    

                                            東京都武蔵野市長  松下玲子  


 昨年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻は、いまもなお続いていることに心が痛み、強い憤りを感じます。1日も早い停戦と平和な日々がウクライナに訪れることを願って止みません。ひとたび戦争が起きると、終結はとても難しいということが、ウクライナ侵攻からも明らかです。戦地から届けられる映像や記録から、いままさに戦争が現実に起きているのだということ、その戦争とは人と人が殺し合い、大切な日常生活を奪い、家や地域、国をも追われてしまうことなのだと私は再認識しています。
 戦争は簡単には終わらないからこそ、始めてはいけないのだと思います。そして、そのためにはどうしたら戦争をしないか、戦争にならないかを考え、行動するしかないと思います。私たちには憲法9条があります。戦争を繰り返した悲惨な歴史から学び、憲法を制定し人権や戦争放棄を規定し、二度と戦争はしないと国家権力を縛っているはずです。憲法の解釈を変え戦争が出来るようにすることは、二度と戦争をしない憲法9条とは矛盾します。いざ戦争が起きてからではなく、戦争になる前に戦争にならないようにしなければならないと考えます。
かつて第二次世界大戦当時、
武蔵野市には航空機エンジンの軍需工場、中島飛行機武蔵製作所があり、米軍からの攻撃で多くの方が犠牲になられました。犠牲になられた方に哀悼の意を表すと共に、戦争の記憶を風化させることなく、平和の大切さを伝えていくために、最初に攻撃を受けた 月 日を武蔵野市平和の日と定め、平和の日事業を継続して行っています。戦争も核もない平和な世界を武蔵野から発信し続けて、思いを共有する人たちと共に、平和への思いを強く持ち続け行動したいと思います。併せて、ルーマニアや韓国等の海外友好都市とも草の根の交流を続けています。大切な命を守り育むため、基礎自治体の首長として私は声を上げ続けます。



2面〜8面             女性「九条の会」学習座談会報告 
                      
                                
日時 2022年11月7日 14:00〜  於 文京区男女平等センター

                        
    軍事費2倍にして女性の低年金は解消できるの?
           
             講師 今野久子さん

                    

■はじめに─2つの事件から


 私は年金引き下げ違憲訴訟の東京弁護団のひとりです。その関係で年金問題に取り組んでおりますが、今日は、女性の低年金の問題と岸田政権が突き進んでいる軍拡について、お話します。
 はじめに、二つの象徴的な事件をとりあげたいと思います。一つは、2021年12月の朝日新聞に載っていた、寝たきりの84歳の姉を「これ以上介護できない」とウエットティッシュで顔を覆って窒息死させた妹に執行猶予の判決、という記事です。年金は二人合わせて月に10万円。それでも、妹が生活保護を拒んだのは、子ども時代に、親から「人様に迷惑をかけてはいけない」と言われて育ち、「税金からお金をもらうのは他人のお金で生きることだから、迷惑をかけないためには終わらせるしかない」と考えたからということでした。 
 もう一つは、2020年11月都内のバス停のベンチで仮眠していたホームレスの60代の女性が、近くに住む男性に石とペットボトルが入った袋で殴られて殺害された事件です。女性は、なんの迷惑もかけていません。でも、近くに住んでいた犯人は「自分の風景にいてほしくない邪魔な存在だったから殴った」と供述したそうです。
 亡くなった女性は、2月頃まではスーパーで非正規の試食販売員として働いていたのですが、家賃を払えず路上生活者となり、死亡当時はわずか8円しか所持金はありませんでした。事件後、「命と生活を守り」「彼女は私だ」「この街に暴力も排除もいらない」などというプラカードをもってデモがおこなわれています。
政府は、自助→共助→公助といいますが、彼女たちは自己責任で頑張った末に、命を失っています。困ったときに「助けて」といえない社会になっていることを示す、何とも、痛ましい事件です。 
 最近は女性のホームレスも目にするようになりました。こういう貧困状況がひろがっていることは、政治の責任だと思うのですが、政府は実態を見ようとしない、そこが一番の問題ではないかと思います。

◆日本の相対的貧困率


 若い人も大変な生活を強いられています。近所に住む子どもや孫に毎日食事を食べさせて、「現物で支給しています」という年金生活者もいます。日本の貧困は深刻になってきています。統計からも政府だってわかっているはずです。
 貧困には、絶対的貧困と相対的貧困があります。絶対的貧困とは、飢えや住む家がないなど、人間として生きていくことが困難な状態で、外からもわかります。相対的貧困とは、その国の多くの人が送っている「標準的な生活」をできない状態を指しますが、外見からはわからないことも多いのです。具体的には、世帯の所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない状態のことで、OECDの基準によると、たとえば2016年度では、日本では、1人世帯では122万円、2人世帯では172万円、3人世帯の場合は211万円という数字をもとにしています。

2012年には、子どもの相対的貧困率16・1%で、7人に一人の子どもが相対的貧困に陥っています。研究者によると、全体の相対的貧困率16・0というのは、人口でいうと2000万人近くが貧困状態にあるという、恐ろしい数字です。
80歳以上では、女性は28・8%、つまり下のグラフでは、子どもと高齢者の相対的貧困率がきわだっています。
2012年には、子どもの相対的貧困率16・1%で、7人に一人の子どもが相対的貧困に陥っています。研究者によると、全体の相対的貧困率16・0というのは、人口でいうと2000万人近くが貧困状態にあるという、恐ろしい数字です。
80歳以上では、女性は28・8%、つまりつまり3~4人に1人が貧困状態にあり、男性は5人に1人です。年齢が高くなるほど、貧困率が高くなっています。女性は男性よりも長生きですので、厳しい老後ですね。

年金は命綱-だが細るばかり


◆年金支給状況


それでは、実際に年金はどれくらい支給されているのか、2020年度でみてみます。

 国民年金(老齢基礎年金)のみの方は、月額5万円程度です。国民年金は40年間満額納付しても年金額は月額約 6万5000円で、生活保護の生活扶助基準以下であり、それしか収入がない場合、「健康で文化的な最低限の生活」はできません。厚生年金の場合は、平均月額14 万円余ですが、女性は男性よりも約6万5000円も少なく、女性は49%が月額10万円未満の低額です。
 2017年に年金受給資格期間が25年から10年になりましたが、それでも無年金者は19年現在77万人と推計されています(厚生労働省年金局「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より)。
 日本の公的年金は、先進国で基準とされる高齢者が「人間らしい生活のできる年金」制度が確立していないのが問題です。

◆ 社会保障を後退させてはいけない-憲法と条約の定め

 日本の憲法は、25条1項で国民に対し「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」を保障し、2項で、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めています。この条文を素直に読めば、国は社会保障の増進向上に努めなければならないのであって、社会保障の削減は逆行しています。
 日本が批准している国際人権法である社会権規約(1966年国連総会で採択された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」)では、9条で締約国が社会保障の権利をすべての人に認めること、2条では、各締約国は規約上の権利の実現を漸進的に達成するため、行動をとることを定めています。これを「後退禁止の原則」といって、国際人権法の基本原則になっています。
 ところが、日本では、36年前国民皆年金となり、老齢基礎年金の制度になって以降、年金水準の引き下げが続き、マクロ経済スライドも実行され、さらに21年度からは、物価や平均賃金のどちらかが下がれば年金が減額になるという状況です。安倍・管政権のもとで(2013年度~2021年度)、実質6.5%も引き下げられ、2022年度も0.4%引き下げられました。年金は高齢者の命綱ですが、細るばかりです

  日本の憲法は、25条1項で国民に対し「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」を保障し、2項で、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めています。この条文を素直に読めば、国は社会保障の増進向上に努めなければならないのであって、社会保障の削減は逆行しています。
 日本が批准している国際人権法である社会権規約(1966年国連総会で採択された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」)では、9条で締約国が社会保障の権利をすべての人に認めること、2条では、各締約国は規約上の権利の実現を漸進的に達成するため、行動をとることを定めています。これを「後退禁止の原則」といって、国際人権法の基本原則になっています。
 ところが、日本では、36年前国民皆年金となり、老齢基礎年金の制度になって以降、年金水準の引き下げが続き、マクロ経済スライドも実行され、さらに21年度からは、物価や平均賃金のどちらかが下がれば年金が減額になるという状況です。安倍・管政権のもとで(2013年度~2021年度)、実質6.5%も引き下げられ、2022年度も0.4%引き下げられました。年金は高齢者の命綱ですが、細るばかりです。

無年金者・低年金者の存在


日本の公的年金制度は2階建てになっています。1階は国民年金(基礎年金)で、2階が厚生年金(現行では旧共済組合給付金もこれに含まれる)です。1階の国民年金には、全員加入し、定額の保険料を納めなければなりません。自営業者や厚生年金未加入の労働者は、国民年金にのみ加入です(第1号被保険者)。2階の厚生年金は、企業や団体に雇用されている人や公務員が対象で(第2号被保険者)、厚生年金の保険料は賃金に対応した標準報酬をもとに算定され、労使折半の負担で納めます。厚生年金に加入していた人は国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして、2階部分の厚生老齢年金がもらえます。こうして、厚生年金に加入していたか否かで、年金額が大きく違ってきます。
 日本には、世界の流れになっている最低保障年金制度がありません。また、高齢者に公費で最低生活費を保障する制度もありません。そのため、政府統計でも77万人の無年金者がいると推計されています。特に沖縄は、日本への復帰が遅れたため年金法の適用が遅れ、無年金者の割合が全国平均の2倍近くになっています。
国は、年金しか所得がなく、それで生活できない場合には、生活保護を利用すればよいと言います。それでは、どれほどの人が生活保護を受けているか(これを「捕捉率」と言います)というと、必要な人の約2割と言われています。
2022年2月の生活保護受給世帯は164万余で、受給者数は200万人。生活保護を必要とする人が概算でも1000万人を優に超え、8割が保護から漏れて生活保護基準以下の生活を余儀なくされているという状況にあります。韓国を除くと日本の高齢者の働く割合はダントツに高いのも、年金が減り働かなければ生活できない人が増えているからです。しかも、78%が非正規雇用で、低賃金で労災も増えています。「死ぬまで働けというのか」という悲痛な声が上がっています。

◆制度間格差

 制度によって年金額がまちまちです。国民年金の人はせいぜい月額5万円ほど、国民年金の受給者と厚生年金受給者では、受給額は1対3という大きな格差があります。5割を超える高齢者世帯が年金しか収入がないというのに、こんなに違いがあっていいのでしょうか。

◆同じ制度の中でも男女格差

 国民年金(老齢基礎年金)だけという低年金受給者の間でも、さらに男女で月額約4000円の差があります。また、厚生年金受給者では、女性が男性より平均して6万円以上も低いのです。
 これっておかしくありませんか。高齢になってからの必要な生活費
に男女で違いは無いはずです。
社会権規約3条も、女性差別撤廃条約11条も、社会保障の権利について男女平等の原則を定めています。憲法も、14条で法の下の平等を定めています。老人福祉法は、2条で、高齢者は「敬愛され、かつ健全で安らかな生活を保障される」と定めています。年金受給権は、基本的人権なのに、女性が差別されているのです。


女性はなぜ低年金なのか 


それでは、なぜ女性の年金額は低いのでしょうか。女性の人生を考えてみてください。現在の年金受給者のかたは、均等法制定以前に就職した世代で、当時就業規則に結婚退職制や妊娠退職制を定めている会社もありました。結婚でやめる人は、今はあまり多くないですが、第一子誕生を機に離職する女性は現在でも約5割です。そうすると雇用が中断され、2階の厚生年金加入者からは外れます。正社員で再就職できればよいのですが、現実には、パ-ト等の非正規雇用が多く、働いても2階部分には戻れません。男の人は結婚したから、あるいは子どもができたからと言って職場を辞める人はほとんどいませんね。他方、女性は、就職、結婚、出産、育児、親の介護、配偶者の転勤など、人生の出来事の度に、働き続けるか悩み、選択を迫られ、働き方を変えざるを得ませんでした。雇用を中断され、年金の2階部分を増やすことができないできたのです。
 もちろん、正社員で働き続けてきた人もいます。でも、男女間には賃金格差があります。2021年の統計でも、男性の賃金を100とすると、女性の賃金は75.2に過ぎません。日本の男女賃金格差は先進国で群を抜いており、現役時代の賃金格差は、そのまま年金の男女格差として跳ね返ってきます。

◆非正規雇用と4分の3ル-ル

 女性の低年金の要因は、雇用が中断されることと、働いてもパート、派遣、有期雇用など非正規雇用が多いことにあります。
主婦パートは高度経済成長期には不足する若い働き手をカバ-する労働力として使い、経済が悪くなると今度はパ-トでも正社員の仕事が十分にできると持ち上げて基幹的な仕事もやらせるようになりました。ところが、賃金は家計補助のためなのだからということで低いまま。安上がりで便利な労働力として活用されたのです。そして経済が更に悪化してくると、新卒の若者が不本意ながら、パートや派遣、有期雇用等の非正規雇用で働かざるを得なくなりました。
そして、年金については、非正規雇用には4分の3ルールというものが適用され、通常の労働者の労働時間の4分の3以上でないと厚生年金に入れません(2016年10月に一部改正されました。)。
 正社員が週40時間制ならば、30時間以上でなければ、厚生年金に入れなかったのです。
 厚生年金の掛け金(保険料)の半分は使用者側が負担するので、賃金が高くなれば使用者の負担も大きくなります。週40時間の正社員を一人雇うかわりに、週20時間のパ-トを2人雇えば、社会保険の使用者負担がない分助かるわけです。それに
雇用調整もしやすいということで、非正規をどんどん増やしてきたのです。公務職場でも非正規化はすすんでいます。現在では、非正規労働者は全体で約37%、女性は56%、男性は22・8%という状況です。
 働く女性は増えました。しかし、増えた分は非正規がほとんどで、正社員・正職員の人数は横ばいです。低い賃金で働く女性が増えているのです。女性雇用者のうち非正規は約6割になる勢いです。
 安倍さんは女性が輝く社会を実現すると言っておりましたが、本音は少子化で減る労働力人口を女性が埋めてくれればよかったのです。未だに「同一(価値)労働同一賃金の原則は、日本の労働法には明記されていませんし、男女賃金格差の是正は進んでいません。

◆第3号被保険者制度について

これは、会社員や公務員(第2号被保険者)の配偶者は、保険料を納めなくても、国民年金(基礎年金)を納めたものとしてカウントされる制度をいいます。法律では配偶者は、男女を問いませんが、実態は、98%が女性、つまり妻です。未婚や離婚をした場合は第3号被保険者になれないので、自ら保険料を支払います。結婚している人でも配偶者が自営業者であれば、自ら国民年金を支払わなくてはなりません。明らかに専業主婦優遇の制度に見え、女性同士を分断させてきました。
でも、年金引下げ違憲訴訟にかかわる中で、一面的にとらえてはいけないと思うようになりました。これは結局、女性に子育てや介護といった無償労働を担わせる「性別役割分業」の政府の家庭政策が根底にあるからです。現在国民年金(老齢基礎年金)の半分は税金でまかなわれています。そう考えたとき、就労できなかった人も含めて公費で一定額の最低年金を保障し、働いて保険料を納めた分は国民年金に上乗せができれば、公平ではないかと考えました。この面からも最低保障年金制度の確立が求められています。

◆標準モデルは世帯単位

しかも、年金制度自体が、片働き(男性雇用者と無業の妻)で、20歳から60歳まで40年間年金を納めるという世帯を標準モデルとして設計されているのです。しかし、1997年以降、共働き世帯が片働き世帯を上回り、いまでは2倍になっています。世帯は多様化し、標準モデルが実態からかけ離れているのです。年金も世帯単位から個人単位に切り替えていかなければなりませんが、それも全然進んでいません。


■女性の低年金はジェンダ-不平等の積み重ね


 こうしてみてくると、日本の女性の低年金は、人生の出来事で生じるジェンダ-不平等の積み重ねのこう結果であると言えます。構造的原因なのです。
 日本のジェンダーギャップは大きく、昨年のジェンダー平等指数は120位から116位になったと思ったら実は分母が減って146カ国中の116位で先進国では最低のランクまで下がっているのです。教育ではトップレベルなのに、それが生かされていないのですね。能力を持った女性たちが政策決定の場で力を発揮する状況になっていないことが大きいと思います。

国際的にも日本の年金制度は批判されている

 女性の低年金については、国際機関からも懸念が示され、勧告も出されています。国連社会権規約委員会は、2001年と2013年に、日本政府の報告を審査し、年金の男女格差が大きいことと最低年金の保障がないことに懸念を示し、改善のため最低保障年金制度をつくるように勧告しています。
2016年には、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府の報告に対して、高齢女性の貧困を取り上げて、年金はこれらの女性たちの「最低生活水準を保障するものへ改革する」よう勧告しています。委員会は、年金について法律が性別を理由に差別しないだけでなく、過去から続いている不利益を緩和し、解消するには、特別措置を考えてよい、と言っているのです。ところが、日本の場合、過去から続いている女性や、低年金者に対する不利益を緩和したり、解消することは全く考慮されずに年金引下げが強行されています。これは、問題です。 

■女性の低年金の実態─全日本年金者組合女性部の活動から

  全日本年金者組合(1989年結成)は、ずっと以前から女性の低年金を問題にしてきました。2012年には、女性部が「女性高齢者生活実態調査」を全国希望で行い、アンケ-トヘの回答者数1万8481人の結果を発表しております。この調査結果は、国連のNGOでの報告や、年金引き下げを決めた平成24年の年金改正(引き下げ)法が国会で審議されるときには、資料として取り上げられています。女性の低年金はようやく社会問題として注目されるようになってきたとはいえ、自分の低年金の生活を語ることはプライバシ-をさらけだすことにもなり、勇気のいることです。現在、年金者組合は、年金問題について、「岸田首相への手紙」を届ける運動に取り組んでいます。女性部も、低年金女性の生活実態の証言を集約中です。1例を紹介します。
北海道の80歳の方です。「年金が今年6月から下がって月8万円になりました。食事は日2回、服もこの数年同じものを着ています。北海道なので冬場は大変です。持ち家ですが、築40年を経ているので壁などに傷みがあって、修理が必要なのに手が回りません。子どももコロナ禍の影響で仕事が減り、これまで少しあった蓄えもままならない状況です。」
やはり食事を減らしているのですね。近く印刷物にすると言っておりますので、注目してください。

 

年金引き下げ違憲訴訟

 年金の引き下げについては、裁判でもたたかっています。国は、2013年10月から「特例水準を解消する」といって、2.5%の年金削減を開始しました。2000年から3年間物価が下がったときに景気対策や高齢者の生活を考え、年金を引き下げなかったのですが、そのような「特例水準」は解消すべきであるとして10年も経ってからその分を削減したのです。ひどい話です。怒った12万人を超える人が行政不服審査請求を行いましたが、請求却下。
2015年5月、全国いっせいに提訴しました。39地裁で、原告5297人という社会保障では最大の裁判になっています。憲法13条、25条、29条、社会権規約違反などを主張して、年金減額処分の取り消しや減額分の請求をしています。
時間が足りなくなりそうなので、結論だけいいます。敗訴が続いております。10月28日には、東京高裁でひどい判決が出ました。「憲法25条は、社会保障を切り下げることを禁止してはいない」とまで言っています。憲法25条2項の国の社会保障の向上・増進の努めが書いてあるのに。条約も無視です。国は、立法や行政には広い裁量権があり、「世代間公平」とか「年金制度の維持」のために引き下げたのだから、逸脱していないと主張し、判決は、具体的な証明がほとんどなされていないのに、それを認める、不当判決です。全国の敗訴判決は、多くは最高裁に上告されております。2023年が正念場です。この場をかりていっそうのご支援をお願いします。

 

年金積立金は200兆円も

 年金積立金は2021年末には200兆円を超えました。年金支給総額は年57兆円程度ですので、保険料や公費負担なしでも、4年分位の巨大な積立金があることになります。諸外国にはこのような例はありません。実は、安倍政権になってから、この積立金の50%を株で運用することを可能にしました。年金積立金は安定的に運用することが基本原則なのに、日本は大切な積立金が投機的に運用されているのです。政府は、せめて年金を減らさないために積立金を使うことを考えればよいのに、そういう発想すらないのです。


軍拡の暴走 

今、国民の命と生活が瀕死の状態にあります。
そういう中で急激に高まってきているのが軍備増強の声です.ロシアのウクライナ侵略、中国の脅威、台湾有事、北朝鮮のミサイル発射、プ-チンの核兵器使用の危険等、いつ軍事衝突が起こるかもしれない緊張関係にはあります。それに便乗するかのように、日本でも大軍拡への動きが激しくなっています。
岸田さんは首相になった当初は、「新しい資本主義」とか「分配なくして成長なし」、「私は広島出身です」などと言って、国民に期待をもたせていましたが、選挙が終わったらすっかり変わりましたね。「分配」などということは全く言わなくなりました。5月の日米首脳会談では、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領からはこれに対する強い支持をいただきました」と言って、両首脳は中国を念頭に、日米同盟の抑止力と、対処力を早急に強化することを確認したと発表しています(5月23日)。防衛省は、2023年度の防衛予算として約5・6兆円という史上最高の予算案をだしています。
FMS(対外有償軍事援助)と言って、アメリカ政府から「買わせてあげます」といわれて、安倍首相時代から兵器の爆買を続けており、アメリカの軍需産業にとっては、日本はお得意様です。バイデン氏が支持するのは当然のことです。岸田首相は国会での議論もしないうちに、防衛費の増強を約束してきたのです。国会無視、国民無視も甚だしい、民主主義の破壊です。
防衛省は、2023年の防衛予算として約5・6兆円という史上最高の予算案を出しています。(注・以下は、講演後の軍拡議論の情勢を加筆してあります)。自公両党は、「抑止力」を強めるには相手のミサイル発射拠点等をたたく「敵基地攻撃能力」を保有すべきと合意しました。「敵基地攻撃能力」をもつということは、日米安全保障条約にもとづいて相手国の領域で「反撃」(つまり、攻撃)できるということで、アメリカと一緒になって戦争する国、武力行使する国になるということです。
12月末には安保関連3文書(①国家安全保障戦略、②防衛計画大綱、③中期防衛力整備計画)の改定が予定されていますが、閣議決定した文書案では、敵基地攻撃(「反撃)能力の保有も、米国製の長距離巡航ミサイル、トマホ-クの配備も明記するとしています。
岸田首相は一挙に大軍拡路線を突き進み、2023年から5年間に必要な防衛費は総額43兆円という数字を算出し、NATO並みにGDP2%(年額11兆円)にするとしています。

◆大砲かバタ-か!

 2021年度の国家予算でみてみると、総額は106兆円余ですが、そのうち歳入は、国債が40%、税収は53%です。税収のうち消費税が35.3%(20兆円)、所得税は32・5%(19兆円)、法人税15・7%(9兆円)となっています。借金で4割をまかなっている事態です。すべての人が負担する消費税の割合が高いのに比べて、企業から取る法人税は9兆円にすぎません。
 物価の急騰、上がらない賃金、減る年金、重い教育費の負担など、国民の命と生活が危機的状況にあるのに、岸政権は、防衛費倍増はまるで決定済みかのように財源論に飛躍し、防衛は「国民自らの責任」であるとして、1兆円程度の防衛増税は当然と言いだしています。女性の低年金の解消など考えていません。
現に社会保障の削減が強行されております。年金は、22年6月支給分から0.4%引き下げられ、マクロ経済スライドで年金の引き下げはこれからも続きます。10月から医療費の窓口負担が1割から2割になった高齢者は370万人にも及び、さらに、介護保険利用料の倍増など大改悪が検討されています。 
もともと、国債に大幅に頼る借金財政の中で、防衛費(軍事費)は5年後には11兆円に倍増するというのですから、大砲(軍事費)を優先すれば、バタ-(社会保障費)は削減され、国民に我慢を強いることは、必至です。

◆人の命と人権を守るために憲法9条を生かし外交努力を!

 私自身は、防衛費を倍増しても戦争の抑止力にならない、と思っています。戦争は人を殺し殺され、人間が築いてきた住宅や学校、病院、鉄道など社会資本を破壊するだけで、何も産み出さない。戦争をしてはならないことは、ウクライナの惨状を見れば、誰でもわかることではありませんか。戦争がつづく限り、人の命が奪われ、人権が侵されていく。日本が「軍備には軍備で」と競争してみたところで、中国の財力に勝てますか。中国のGDPは、日本の3.7倍です。アメリカとの「核共有論」まで出ていますが、原発を多数もっている日本では、核兵器を使わなくても、原発を2,3箇所攻撃されたら、核兵器で攻撃されたのと同じ結果となり、人は住めなくなり、終わりです。
日本は、戦後77年間戦争で国民が人を殺したり、殺されることはなかった。平和を維持したからこそ、戦後の廃墟から立ち上がり、驚異の経済成長を遂げたのです。唯一の被爆国でもあります。いまこそ戦争を放棄し、紛争を解決する手段として武力行使を許さない憲法9条を持つ国として、戦争を止める、戦争をしないための平和外交の努力を尽くすべきではありませんか。
 政府や財界、一部マスコミは、日本の社会保障は「高齢者優遇型」であるといって、「全世代型社会保障」へ改革するといっておりますが、高齢者と現役世代を対立させて、政権や財界への批判をかわそうとするものです。
大企業の内部留保はこの秋の発表で500兆円を超えました。国家予算の5年分位に匹敵する巨大な額です。ところが働く人の実質賃金はこの30年間上がっていません。主要国では、日本だけです。

 就職氷河期に正社員になれなかった現役世代も40代に入り、年収200万円未満のワ-キングプアと呼ばれる人は1800万人(雇用者の約3分の1)を超えています。このままでは、将来低年金者が激増します。
まずは、実質賃金をあげることです。全国一律最低賃金自給1500円へのアップ、非正規雇用から正社員化へ、男女賃金格差の是正など、賃上げを実現する。あわせて、高齢になっても、人間の尊厳を維持して、安心できる生活を送ることができるように、最低保障年金制度を導入し、年金額を引き上げる、そのためには公費(税金)や事業主負担を増やす必要があります。税金を大砲に使うのかバタ-に使うのか。年金者組合は、月額8万円を最低保障年金とする提言を発表し、議論をよびかけています。
岸田首相が打ち出した軍拡路線は、明文改憲や解釈改憲どころか、立憲主義に反する暴走です。年金アップ、社会保障の充実の要求をかかげて、平和を希求する市民と連帯して軍拡の暴走をストップさせましょう。憲法25条、憲法9条は、どちらも日本の宝です。

 

 

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