女性「9条の会」ニュース54 号 2022 年7月号

 

1面  

  憲法九条をいかし、平和で安心して暮らせる社会へ                                                                     

                           柴田恵美子(女性九条の会世話人・婦人団体連合会会長)  

■物価高


「えーこんなに下がるの!」年金切り下げの通知を見て1年間に引き下げられる年金額に愕然としました。物価が上がって毎日の暮らしが大変なのに年金の0.4%引き下げは許せません。
 帝国データバンクの調査によると、食品主要メーカー105社で、年内に1万5257品目の「値上げ」が計画され、すでに6451品目が値上げされ、7月以降も値上げラッシュが続きます。急激な円安、食卓への影響は秋以降に本格的に「再値上げ」の動きも今後強める見通し(「食料主要105社」価格改定動向調査(7月)・帝国データバンクの消費者物価上昇率(前年同月比)は2%を超えています。電気代をはじめ生活に欠かせないものほど大幅に上昇しました。このところの猛暑で、電気代が気になります。
6月6日、黒田東彦日銀総裁が物価高騰について「家計の許容度も高まってきている」と述べたことに憤りの声が上がりました。総裁は8日、「表現は全く適切でなかった。撤回する」と表明しましたが、国民の暮らしが全く分かっていません。また、物価高を招いている「異次元の金融緩和」を続ける姿勢は変えていません。
年金は下げられる、賃金は上がらないなかでの物価高は暮らしを直撃しています。91の国と地域が「付加価値税」の減税を実施・予定しています。消費税減税など抜本的な物価対策が求められます。


■単軍事費をGDP比2%に‐大軍拡を許すな!


 自民党は4月27日政府に対して「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、「反撃」する対象範囲をミサイル基地だけでなく指揮統制機能等も含むとし、さらに軍事費は対GDP比2%以上を念頭に5年以内に達成すること、武器輸出の大幅な緩和を求める提言をしました。提言は、憲法の平和原則と「専守防衛」原則を投げ捨て、国家を戦争へと突き進ませるものです。岸田政権はこの提言を、今年度中に作成する「国家安全保障戦略」などの防衛3文書に反映させる方針です。
6月7日に、閣議決定された「骨太の方針」では、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」という文言を新たに盛り込みました。また、北大西洋条約機構(NATO)が軍事費を対国内総生産(GDP)で「2%以上」を目標としていることも書かれています。
軍事力を増大させることは、日本や近隣諸国の安全保障環境を危機に陥れかねません。軍事対軍事では平和は生まれません。軍事費の増大は、消費税増税、さらなる社会保障費の削減等がもたらされます。軍事優先をストップさせ、暮らしと福祉・教育の充実を求める取り組みを進めましょう。


憲法9条改憲を許さない


岸田文雄首相は、在任中の改憲に強い意欲を見せており、施政方針演説でも明言し、憲法記念日にも憲法9条への自衛隊明記など改憲への執念を表明しました。208回国会衆議院憲法審査会は、これまでの慣例を破り、予算審議期間中から定例開催が強行されました。緊急事態条項、安全保障(憲法9条)、地方自治等、自由討議の名のもとに、自民党改憲4項目を中心とした改憲項目についての議論が行われました。
ロシアのウクライナ侵略に乗じて、安倍元首相や日本維新の会から「核共有」の声がおき、日本原水爆被害者団体協議会から抗議の声が上がりました。核兵器禁止条約第1回締約国会議が開催され、「核兵器のない世界」の実現に向けた「ウィーン宣言」と、「ウィーン行動計画」を採択しました。
今政治に求められているのは、緊急事態条項創設等のための憲法「改正で」はなく、国民のいのちと暮らしを守り、憲法9条の精神に基づき平和な国際社会を構築するために武力によらないあらゆる外交努力を尽くことです。
「憲法改悪を許さない全国署名」を大きく広げ、憲法9条改憲を許さない声を更に大きくし、憲法9条を生かし、平和で安心して暮らすことができる社会を実現しましょう。 


 
                                       

2面〜8面             女性「九条の会」学習座談会報告 
                      
                                
日時 2022年5月23日 14:00〜  於 文京区男女平等センター

                        
     国際社会と日本─戦争をさせない環境づくりを─ウクライナ侵攻を経て
           
             講師 猿田佐世さん

                    

■外交イニシャティブ(ND)とは


 日本のさまざまな声を外交で実現させるために、政策提言を国内で発表し、メディアや講演会、シンポジウムなどを通して武力によらない新しい外交を、各国政府や国際社会に直接働きかけるシンクタンクです。新外交イニシアティブはこれまで、ワシントンの米議会や政府、シンクタンクに出向いて交渉し、沖縄基地問題、原子力エネルギー問題などの政策決定に影響を与えてきました。


■ウクライナ戦争からの教訓


 多くの保守派の人達は、「自分たちで国を守らなければ誰も守ってはくれないのだから、日本の国防力を強めなければいけない」と言います。また、護憲派の人でも「ウクライナの戦争を見るまでは、自分は憲法9条が大事だと思っていたけれど、あの映像を見てしまうと憲法9条ではだめなんじゃないか。そのためには核兵器を保つ必要があるのではないかと思うようになった」と質疑応答のときに発言する人がいます。そのくらいリアルタイムで放映される被害の映像は大きな衝撃だったのだと思います。
 私が受けた教訓というのは、抑止力などと言っていても、大国が一度戦争を決意したら、何をしても止めるのは難しいということです。そして戦争になったときには壊滅的にやられるということです。だから戦争をさせないことが何よりも大事なのだということです。核兵器を含めた世界規模での軍縮をしなければならないというのが、教訓だと思っていて、それは結局憲法9条の理念に立ち返るということだと思うのです。沖縄とか広島、長崎のようなシビアな戦争を体験した上で、先輩たちが9条という概念を生み出したのですから…。

■自民党の安保提言


 提言の内容は、

1,「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と名称変更する。
  そして「指揮統制機能等」を攻撃目標に追加するとしています。「指揮統制」をするところ、日本の防衛省に当たるところは北京にあると思われますが、そこを攻撃できるとしています。今までだと、日本に向けてミサイルが発射されたときにそれを迎え撃つことしかできなかったけれど、大もとを叩くのだと言うわけです。
②防衛費のGDP比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力を抜本強化する。
③防衛装備移転三原則(武器輸出三原則)を見直して、侵略を受けている国に輸出を可能にする制度を検討する。
④専守防衛の自衛のための必要最小限の限度は、その時々の国際情勢や科学技術を考慮して決まる。


 今回の変更も専守防衛のあり方なのだと言っているのです。

■「敵基地攻撃能力」

 「敵基地攻撃能力」は軍拡競争を招きます。「指揮統制機能等を攻撃」するということは北京を攻撃するということを意味しています。そうすれば当然相手も報復するために軍備を拡大し、際限のない軍拡競争が続くことになります。「反撃する」と言っても日本には情報がないのでアメリカ頼みになるわけで、撃ち漏らせば日本は甚大な被害を受けることになります。また、特に「指揮統制機関」は厳重に防御されており、自衛隊の巡航ミサイルでは攻撃は不能です。そのため核、非核両方の弾道ミサイルの保有に繋がらないかという懸念があります。ミサイルとミサイルの撃ち合いを想定しているわけですが、はたして国民には、ミサイル攻撃の被害に耐えて抵抗する了解や覚悟はあるのかということを考えていかなければならないと思います。

防衛費のGDP比2%


 ウクライナとロシアのGDP比はウクライナ1に対してロシア10です。しかしウクライナはロシア並に国家予算を軍事に割いており、軍事費もウクライナ1に対してロシア10です。それでも弱いと言われているわけです。
 日本と中国のGDP比は1:3。日本はGDP比2%にしようとしていますが、本気で中国とやり合うのでしたら6倍にしなければならないのです。日本はすでに軍事大国です。でも憲法9条のおかげで日本人社会一般では「日本は弱い国」だと思われています。学生に「日本の軍事力は世界の何番目でしょうか」と聞くと、半数ぐらいの学生は100番以下だと答えます。実際の軍事力は世界第5位だとあるアメリカのシンクタンクは発表しています。それでも日本は軍隊を持っていないという人もいますが、今の2倍に軍事費を増額すると日本はアメリカ、中国についで3番目になるのです。すでに軍事大国なのに、さらに軍事大国になっていくのです。コロナで疲弊している社会のために使うお金は幾らでも必要なのですが、そのお金はどこから出すのですかと言いたいです。
何をどう使うかは示されずに、とにかくNATOの水準まで防衛費を増やさなくてはいけないのだということでGDP比2%という数字が出てきているのです。

防衛装備移転三原則

 武器輸出3原則は、過去の日本の政治家たちが「紛争を助長しない」ために戦争当事国には輸出をしないなどと決めていました。ウクライナでは、アメリカや他の国々が次々軍備の提供をしています。アメリカは、軍備を提供しながら、ロシアをやり返せ、ロシアを弱体化せよとけしかけ、今ウクライナはどんどん代理戦争の様相になってきています。武器の供与は明らかに紛争を継続させ、より多くの命が失われているという側面もあるのです。
軍縮が大事なのですが、軍拡をしながら、軍縮を掲げても誰も言うことを聞きはしません。武器提供をするということは紛争の当事国となることを自覚する必要があると思うのです。

■安保提言の根底にあるもの


 これが自民党の安保提言なのですが、どういう方向性が根本に流れているかといいますと、抑止力の強化を考えているわけです。「攻めたら何倍返し」するぞ、ということで他国を牽制し、他国からの攻撃を抑制するという論理に基づくのが「抑止力」ですが、その強化のための提言です。また、「攻めてきたらどう対処するか」「戦場でどう戦うか」そして、「アメリカをどう巻き込んでいくか」、「どのようにしてアメリカをこの地域に留まってもらうか」これが根底にある提言です。
今までの対米従属は、アメリカの戦略に対して、日本の基地を提供しアメリカのやっていることを日本は支えていく、アメリカに中東に行けと言われればお金だけだしたり、実際に行くというように、アメリカリードなのです。しかし、アメリカは、どんどん力を落とし、アメリカ第一主義になってきている。しかし日本政府としてはアメリカにいなくなってもらっては困るわけです。でもアメリカが弱くなっていることを日本もわかっている。しかし、米国がこの地域から引いてしまったら困る。そこで、米国を巻き込むことが大きな課題となっています。兼原信克元内閣官房副長官補は「米国が公平な同盟であると考える水準まで防衛費を増やさなくては、いずれ米国も日本を見捨てるであろう。防衛費をGDP比2%、すなわち10兆円への増額を早急に実現するべきである。」と語っています。アメリカは日本にとって、強いアメリカでなければ困るわけです。核兵器の軍事大国アメリカがこの地域に留まってくれていなければ困るのです。
 戦前の国体は天皇、戦後の国体はアメリカ、それが、白井聡さんの分析ですが、私は、今の国体は「現実に存在するアメリカ」ではなく、「日本があらまほしいと考えるアメリカ」つまり虚構のアメリカだと思っています。

■「抑止力」は「安心供与」とともに


 自民党提言は大変近視眼的だと思っています。戦争は始めさせないことが重要であって、どうやって戦争をさせないようにするかが大事なのに、そういう視点が殆どないのです。自民党からは「どうやって戦争を防ぐのか」という外交提言のようなものが出たことはありません。出てくるのは毎回「軍拡提言」ばかりです。
 強く見せることで相手が怖くなって攻撃できなくなるという手法はわからないでもありませんが、では、西欧諸国の抑止力はロシアに対してあったでしょうか。あったなら戦争などはしていないはずです。アメリカの「核兵器抑止」は簡単に破られて、アメリカはロシアに何もできてはいません。もっとも、ロシアの「核兵器抑止」は効いていますよ。でもアメリカの「核兵器抑止」は効いていません。「抑止力さえあれば」という論理はウクライナ戦争でかなり疑わしくなってきています。
 台湾有事のときには、アメリカが日本を守ってくれると日本は思っていますが、中国のように核兵器を持っている国、ロシアよりも軍事大国である中国が侵攻してきたときに、アメリカが自分の国を核兵器の脅威にさらしながら、日本を守るかと言えばやはり守らないと思います。
 抑止力は「一定の範囲を超えたら許さない」というレッドラインのようなものをお互いが納得して初めて効果があるのです。アメリカとソビエトの冷戦の時代がそうだったと言われていますが、そこを超えなければこちらもやらないという「安心供与」がないと抑止力は成り立たないと考えています。つまり外交がなければ抑止力も成り立たないのです。

■台湾有事回避を

 安倍元首相は、「台湾有事は日本有事であり日米同盟の有事」と台湾のシンポジウムで言っていました。つまり台湾に中国が侵出したなら、日本も台湾防衛に参加すると言っているのです。しかし、台湾を防衛することは、「中国と戦争すること」にほかなりません。今の日本は中国と戦争などできますか?GDPが中国の3分の1の日本で。それで頑張りますというのであれば、戦前の日本と同じです。
 戦争をしたら甚大な被害を被るのだということは、ウクライナ戦争で学んだし、台湾でも言えることです。戦争は始まったら多大な人命が失われるので、米中戦争の危険を招いてはいけないのです。
 ウクライナの侵攻で、私は中国が台湾に侵攻する可能性は低下したと思っています。にもかかわらず、世論調査では、約8割の人が、ロシアがウクライナを侵攻したのだから、中国も台湾を侵攻するかもしれないと危険が増大したと考えています。しかし、ウクライナ戦争を中国はつぶさに見ているので、侵攻などしたら経済制裁にあって中国経済が危機的になる、西側諸国は一致団結して武器の提供などもしているので、侵攻はままならないと思っているはずなので、中国から侵攻する可能性は低下したと思います。とは言え、こちらが「敵基地攻撃能力」や「反撃応力」などといったことをやっていけば、ちょっとした小競り合いから大きな戦争に拡大する可能性もあります。不信感や敵意を持った国同士が、強力な軍事力を持ったまま、例えば尖閣などで小さな小競り合いがあったことで、それがきっかけになって大戦争になる可能性がある、ちょっとしたことがもとで戦争の引き金が引かれてしまう可能性もあるのです。
 私たちの最大の課題は「台湾有事をいかに回避するか」です。米中戦争の危険を招いてはならないのです。中国は、台湾統一に向けた軍事力の増強と、軍隊による圧力を強めていますが、アメリカは対抗措置として、台湾への武器供与や軍事強化などの台湾支援策を続け、クワッド(日米豪英)やFOIP、AUKUS(米豪英軍事枠組み)で中国を封じ込めようとしています。今必要なことは戦争をさせないために「米中に自制を求める」ことなのですが、自民党提言には「有事への対処」は考えるけれども、「米中に自制を求める」という視点が欠落しており、「戦争をさせない」努力は全くしていません。

中国は、台湾統一に向けた軍事力の増強と、軍隊による圧力を強めていますが、アメリカは対抗措置として、台湾への武器供与や軍事強化などの台湾支援策を続け、クワッド(日米豪英)やFOIP、AUKUS(米豪英軍事枠組み)で中国を封じ込めようとしています。今必要なことは戦争をさせないために「米中に自制を求める」ことなのですが、自民党提言には「有事への対処」は考えるけれども、「米中に自制を求める」という視点が欠落しており、「戦争をさせない」努力は全くしていません。
 米中の共存がかろうじて保たれてきたのは、米国の指導者が「一つの中国」を認識することで安定を図ろうとしてきたためで、台湾問題の平和解決のために必要なことは、まずは「一つの中国」の認識と「台湾独立の非支持」の方針を再認識することです。1972年に日中間で締結した「日中共同声明」では、「中国の立場を理解・尊重する」としていますが、その立場を再認識することが中国に対する安心供与となると思います。


■「専制主義対民主主義の戦争」という思考の罠


 今バイデンさんは、とにかく民主主義国で団結して「民主主義国同盟」のようなものをつくって、権威主義や専制主義と対峙していくと言っています。しかし、今、目の前にあって、止めなければいけないのは、日々殺されている人たちの命を救うことです。
 今、権威主義国でもロシアの侵攻は許せないと思っています。戦争をまず止める、また、パンデミックや気候変動などの世界的課題については、権威主義国とも協力することが必要になります。
また、イラクにしろ、アフガニスタンにしろ、今までアメリカがやってきた「軍事力を使って民主主義を広める」作戦は成功したためしがありません。唯一例外は日本ですが、日本に広まったのは、国民が戦前や戦中の人権を無視された体験に辟易していたからであって、日本人が自分たちで受け入れた事によります。民主主義は軍事力で広げられるものではないのです。民主主義や人権を広げるためには、それらが素晴らしいものであると言うことを国内外で実践して示し、ロシアや中国の国内の人々にもそれらが素晴らしいものであるということを実感してもらう他方法はありません。

 日本が今何をすべきか、を知るためには、なぜロシアが侵攻することになったのかを、丁寧に見くとヒントがたくさん出てきます。ロシアはソビエト連邦のときから「勢力圏構想」を持っていて、「勢力圏」に介入されることをとても嫌がる。この点、西側に対する不信不満がとても強いのです。元々、ソビエト連邦が持っていた世界的大国であるべき自己像と、そのように受け入れられない実際の地位の落差に対する憤りもとても強い。冷戦後、西側の国々にバカにされ続けてきたと感じて憤っているのです。西欧諸国が、ロシアを切り捨て、ロシア排除での安全保障の意思決定のメカニズム、つまり安全保障をアメリカが主導する世界にもロシアは非常に憤っています。ヨーロッパの国々も、ロシアを安全保障制度の中に入れられるよう努力していかなければならなかったのです。

私たちは本当にアメリアの視点から物事を見ています。私たちは米ロの冷戦終結はロシアが負けたと思っていますが、ロシアは決してそうは思っていません。ペレストロイカによって始まり、ゴルバチョフという偉大なリーダーが主導した東西の和解だと思っています。でも西側では疲弊したロシアが負け、圧倒的な自由主義陣営が勝利したと書いています。そのアメリカの価値観しか認められない自由主義一択の世界に向き合い、ロシアをどう復活させるかがプーチンの課題なのです。今回ウクライナやジョージアという旧ソビエト連邦下の国々が、NATO に加入の意思を示したことが大きなきっかけになっているのです。

台湾、日本という私たちの問題ですが、やはり中国が何を考えているのかを見ていく必要があります。

■国民精神論 

 自民党提言が出されたころ、テレビで元衆議院議員の女性が、「子どもたちも、ロシアの侵攻はロシアが悪いという印象を持っている。うちの子が、大きくなったときに、もし日本が中国などから侵略されて日本を守るために戦争に行きますと言ったら、私は日本のために我慢をして誇りを持って送り出します」という発言をしたのです。私は「ここまで来たか」と思いました。太平洋戦争中と同じではないですか。漫画「はだしのゲン」に父親が「この戦争は日本の負けだ」と発言したために特高警察に連れて行かれたとき、周囲の人達が「戦争に反対するなんて非国民だ」と言っているという場面がありますが、私には、なんで日本がこんなことになるのかわからないと思ったのですが、その元衆議院議員の女性を見て、「簡単にこうなるんだな、日本人は」と思いました。太平洋戦争中に「国民総動員」となった理由がよくわかりました。
 自民提言でも「自国を守る覚悟のない国を助ける国はなく、我が国として、自国防衛の国家意思をはっきりと表明することは、同盟国である米国の対日防衛コミットメントを更に強固にするものである」と書かれています。75年前、日本は何を反省したのか、「国より個人」を大切にすると誓ったはずなのに、未だにこんなことを言うのかと情けなく思います。今後、さらに教科書の中に「国を守る」ことが強調され、今にもまして愛国心教育が強化されるのではないと危惧されます。
 このように同調圧力で知らず知らずの間に、発言の自由が抑制され、国を守らなければいけないような雰囲気がつくられて行くことになれば、その事自体が人権の制限になっていくと思うのです。
 自民党提言には「今般のロシアによるウクライナ侵略は、人類が築き上げてきた武力の禁止、法の支配、人権の尊重といった国際秩序の根幹を揺るがす暴挙である」と書いていますが、日本が軍事力を強化し、そのために人権を制限するようなことになるならば、まさにその理念を自ら否定して、日本も中国・ロシア型の国家になっていくと思うのです。
先にも述べたとおり、「民主主義」を武力で押し付けようとしても広がらないことは歴史が証明しています。それらが良いものであることを自国内で実践し、他国の人々にも理解されるように粘り強く働きかけるほかないのです。


■日本外交の一つのモデルに:東南アジア(米中対立の主戦場)


NATOのような軍事同盟とはまた違ったやり方で地域の平和を守ってきている組織としてASEANがあります。日本はASEANの国々を軽視してきました。小さい国ばかりで、発展途上国だった歴史が長く、GDPが低いからです。ASEAN諸国は10カ国あります。
 今、南シナ海を自分の領土であると中国は主張しています。アメリカはそれに対して「領土の拡大は許せない」と言って軍を派遣して中国を牽制しています。周りのフィリピンやベトナムは自分たちの領土であると主張をしていますが、中国とアメリカが戦争をするのではないかということを何よりも心配しています。

ASEAN外相会議

 ASEAN外相会議は2020年9月に、米中両国に対して「自分たちの庭で戦争をしないでくれ」と戦争に巻き込まれることを拒否し、「ASEANは地域の平和と安定を脅かす争いにとらわれたくない」と自制を促すメッセージを出しています。

シンガポール
 Don’t make us choose.─これはシンガポールのリー・シェンロン首相が、アメリカに影響力のある雑誌に投稿したメッセージです。「アジア諸国は、アメリカはアジア地域に死活的に重要な利害を有する『レジデントパワー』だと考えている。だが、中国は目の前に位置する大国だ。アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない。」選べさせるなと言っているのです。

フィリッピン
 フィリピンはアメリカの同盟国です。ASEANにおいてはシンガポールやマレーシアは米国の友好国であり、タイとフィリピンが同盟国です。地位協定の改定を日本は言いだしたこともないけれども、フィリピンのドウテルテ大統領は、地位協定破棄ということをアメリカに言い、中国とも付き合わなければ経済成長もあり得ないということで、両方と上手くバランスをとっています。国民からは「中国に強く出ろ、領土を取られるぞ」と言われるのですが、「そう思うなら私を大統領に選ぶな」「俺が持っている軍隊では中国と戦っても絶対に負けることはわかっている。」と所信演説で言っています。
中国と戦争をしても負けることはわかっているから、してはならないと国会で堂々と言えてしまう。日本では考えられません。

マレーシア
 去年の9月にAUKUSというアメリカとイギリスとオーストラリアの軍事同盟ができました。そのときにマレーシアのイスマイルサプリ首相は、直ちに「AUKUSが南シナ海において、他国による攻撃的な行動を挑発することになるのではないか」という懸念を示しました。インドネシアも「域内で続く軍拡競争と戦力展開を深く懸念する」という声明を発表して、オーストラリアに核拡散防止条約と国連海洋法条約の遵守を求めました。日本の岸防衛大臣は、瞬間に「歓迎します」と明言したのです。ぜんぜん違うのです。

 世論調査をやっても。「アメリカと中国の対立に対して、ASEANはどういう選択肢を持っているかというと、48%の人は、「ASEANは対応力を身につけて対応していく」33%は「中国にもアメリカにもつかない」、14,7%は「アメリカでも中国でもない第3の道を行く」と答えてます。どのグループもアメリカを選んでいません。米中いずれかの陣営に属すると答えた人は3%だけでした。日本だったらどうなのでしょう。7割以上がアメリカの陣営に属するという道を選ぶのではないでしょうか。
また、既にASEANの人々に、絶対に中国かアメリカのどちらかを選ばなければいけないと言ったら、10カ国中7カ国が中国を選ぶと答えているのです。

■日本の取るべき立ち位置は

 日本人はどちらかを選べと言われたら7割ぐらいはアメリカを選ぶと言いましたが、実は世論調査の結果は結構冷静で、「日中関係と対米関係の重要性」という問に対して、49,6%は「どちらも同程度に重要」と答えているのです。
結局日本も「Don’t make us choose」、米中どちらも選べないのです。シンガポールやフィリピンと同じなのです。ですからそういう現実を見据えて、韓国や東南アジアなど、「Don’t make us choose」と叫ぶ国々と連携して、米中に対して自制を呼びかけるべきなのです。

憲法の理念を今こそ

 戦争をし続けた結果、2度と戦火に巻き込まれたくないとの思いから、憲法9条が生まれたわけで、今の私たちよりよほど戦争をよく知っている日本人が生み出したのが9条です。「軍事力を強化すれば安全な国になる」という考えこそが【平和ボケ】なのです。改憲勢力によって憲法はあってないようなものになっていますけれども、憲法がなければ日本はもっとひどいことになっていたわけで、やはり「最低限の縛り」がかかっていたから、今まで戦争をしないで来たわけです。「敵基地攻撃能力」とか「軍事費倍増」などの実質的な改憲を避けるためにも、私たちは声を上げ、先人たちが繋いでくれた憲法を次世代へ繋いでいきましょう。 
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 これまで、9条を守るためにこれまで頑張ってこられた方、是非、若い世代に、バトンを繋いでいただければと思います。NDは20代30代が中心のとても若い団体で、沖縄の基地建設に反対したり、対話・外交を促進し軍拡に反対したりするなどしています。是非、会員となってNDをご支援いただければ幸いです。ウェブサイトから会員登録していただけます。どうぞよろしくお願い致します。
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