女性「9条の会」ニュース8号 2008年3月号

「女性九条の会」3周年記念女性のつどい特集 

 「女性九条の会」3周年のつどいは、まだ肌寒い2月17日の午後開かれました。392名の会場に対して参加者は440名でしたので、多くの方に場外のホワイエ(ロビー)でモニターと音声だけで我慢をしていただくことになりました。
 司会は大原穣子さん。本尾良さんは「心もとない気持ちで始めた『女性九条の会』が大きく育ち、今後さらに、女性の力で世界中を報復から平和の連鎖へと変えていきたい」と挨拶。続いて、サクソフォン奏者の中川美保さんが、「長崎の鐘」「愛の賛歌」など5曲を演奏。透き通った美しい音色に会場はうっとり聞きほれました。
 講演は澤地久枝さん。(内容は2,3ページに掲載しています)休憩を挟んで市川悦子さんが、空襲で逃げ遅れた母親が子どもを必死で守ろうとする「凧になったおかあさん」と、空襲で独りぼっちになった幼い子どもを描いた「ちいちゃんのかげおくり」を朗読。一言一言がまっすぐ心に染み通っていく市原さんの語り口に、目頭を押さえる光景が目立ちました。
 呼びかけ人の吉武輝子さんも駆けつけ、「戦後アメリカ兵の集団暴力に遭い、自殺未遂を二度も繰り返した時、支えになったのは、『人間というものは何があったかではなく、それから先どう生きるかによって価値が決まるんだよ』というお巡りさんの一言だった」。そして、「後輩に同じ悲劇を繰り返してはならない、平和憲法を無傷で後の世代に伝えたいと私は頑張ってきた」と話され、感動を呼びました。 湯川れい子さんからは「憲法九条は日本が人類に残せる最高の遺産です。この世界遺産を大切に守り抜きましょう。」というメッセージが寄せられました。
 最後に江尻美穂子さんが、「まだ世界にはたくさんの人々が戦火に脅えている。みんなが平和を求め、お互いに愛し合って生きたいと思っているのに果たせないでいる。しかしここで諦めてはいけない。たった一人になろうとも、平和を守る意志を持ち続けなければいけないということを今日改めて考えさせられた。みんなで力を合わせて平和な世界をつくる、それが後の世代ヘの責任であることも忘れずに頑張っていきましょう。」と締めくくり、閉会しました。
 会場からは「中川さんのサクソフォンの演奏に感動した。」「小さな一人でも、確固とした意思を持ち続けることが大きな力になるという澤地さんの言葉に共感した。」「市原さんの朗読に涙が止まらなかった」など、64通もの感想が寄せられました。
 「100人もの人が入場できなかった」という報道もありましたが、正しくは5名の方が、ホワイエでは残念とお帰りなり、電話で50名の方にお断りいたしました。しかし、入場を希望されたみな様のご期待に添えない事態を招いたことを深く反省しております。お許しください。

 

澤地久枝さん講演 「一人からはじまる」より     

不透明な国防費
 今年も中学生が犯された。サミットなどという会議へ出て行くほどの国でありながら、63年間にわたって戦勝国の軍事基地がまだあるのはなぜか。米兵は日本を属国としか思っていないから不当な仕打ちを平気でする。防衛とか自衛というのは、国民の命と、国民の存在そのものを脅かさないことが最大の仕事ではないのか。
 防衛費の中には、兵員や兵器の確保の他に、思いやり予算といって、駐留米軍の燃料費などすべてが含まれる。アメリカの基地を押しつけるために支払われる岩国への補助金のようなお金などを全部ひっくるめていくらかかっているか、国は明らかにするべきだ。
 また駐留米軍が不祥事を起こした時に、やっと近年になって日本で裁判をして裁くことが出来るようになったが、慰謝料が決まり、例えば600万円払うということになった場合は、私が沖繩にいた時の例では、600万のうちの300万か400万は日本側が払っていた。これも防衛費だ。

増え続ける軍事費と私たちの生活
 私たちの生活は国防費の増大によっていずれ脅かされると思っていたが、やはりそうなった。日本で今削られたのは福祉関係。4月から75歳以上の人の健康保険料を引き上げる。扶養家族になっていた人からは、独立の存在として一人前の保険料を取る。もっとひどいのは、年寄りはいろいろな病院に行っていてお金がかかりすぎるから、それを一本にまとめるという。しかし、脳梗塞の後で神経内科に行く、リハビリに行く、しかしその人は胃ガンかも知れない。それを全部診られる医者も病院もない。そこまでして医療費を削るのは、アメリカと一緒になって、アメリカの言うことを聞かない国を攻めるため、その軍隊にお金を使うためだ。アメリカの爆撃で壊れた町を再建するためのお金も日本が出している。

忘れられた主権在民
  昨年、防衛庁が防衛省に昇格した。自衛隊は憲法違反であるという論議も、国民の意思を問われることなく、自衛隊はいつの間にか世界有数の軍隊になっていた。大きなお金が動いていて、保守党の政治家が武器輸入の談合の席にいたことがほぼはっきりしているにもかかわらず、司法はそれを追及しようとしない。現憲法になって初めて日本人が手にした、譲ることの出来ない権利である主権在民が今、なめられてバカにされているのだ。自衛隊が憲法違反をして、イラクに給油と称して軍艦を出 している。地上軍は帰って来ているけれど、航空自衛隊は行ったきりで輸送の仕事をしている。なぜアメリカが始めた果てもない、泥沼の紛争に加担するのか。気がついたら日本の自衛隊三軍だけがイラクに残され、アメリカは引いているということもありうるのではないか。アメリカはそのくらいのことは考えているし、さんざんそういうことをやっている。嘘とか、レトリックとか詐術がすごくうまい国。湾岸戦争で130億円もお金を出した。それでも足りない、命を差し出せというようなことをいうアメリカの高官もいるが、もっとうまいやり方で日本の政治家たちは魂を引き抜かれている。だから福田内閣の支持率は下がりつつあるけど、間違えても元に回復するようなことがあってはならない。

警察予備隊の誕生
 昭和25年6月25日に朝鮮戦争が始まった。7月8日、マッカーサーから吉田茂宛に、治安を維持するために警察予備隊を創設せよという手紙が届いた。「7万5000人の警察予備隊をつくることを許す」という文面だった。こうして警察予備隊が発足した。吉田茂は人員確保のために、2年間勤めたら退職金を6万円という、昭和25年としては目がくらむ程の大きなお金を出すことを決めた。私の月給は5000円。公務員の初任給が6000円の時に、衣食住付きで5000円という非常に高いお金で若者を釣った。吉田茂は国会で「警察予備隊は軍隊ではありません」と何回も何回も言った。
 しかしそれから2年後、警察予備隊は保安隊になった。日本の軍事力を強化すれば、極東に配備しているアメリカの軍隊をヨーロッパに移転させ、ソ連と対峙させることができる。そのためにアメリカは、強い軍隊を持て、軍事予算を増やせと日本に迫った。しかし、吉田茂は、今ここで日本が大きな軍隊を持つと日本は経済的に破綻すると考え、うまいことを言いながら引き延ばしをした。その中にはアメリカの枠組みに組み込まれる「日米安保条約」の締結というマイナス点もあるのだが。
アメリカ側の追求に対し、吉田の特使として行った池田は「池田ロバートソン会談」の中で、アメリカの要求に対して「日本人にはこの前の戦争で本当にひどい目に遭ったという記憶が非常に鮮烈で、戦争は嫌だ、平和でなければならないという国民感情は無視できない。」と言った。保守党の政治家がアメリカと交渉する時にその材料に使うだけの平和勢力が、当時は日本国内にあったのだ。今、その力は弱まってしまっている。

政治離れ
 「参議院で勝ててよかった、これで日本の政治は変わり始める、動き始めた」と思ったが、その直後に連立構想が起こった。何で一番対立していなければならない相手に迎合するのか。みんながっかりして、やっぱり駄目だと思う。もう一つは、国会中継を見ていて、いい加減な官僚が作った作文をただぺらぺら読んでいるだけのやり取りはもう飽き飽き。一人ひとりの国民に、例えば医療費がどうなるかという問題、生活保護が打ち切られて明日はどうなるかという、今日明日の問題が問いかけられなくてはならないのに、「誠実によく考えて」などと、何も答えないでその場だけを切り抜けていく。大臣はお飾りみたいなもので、政治を動かしているのは官僚だ。見ていると、必ず寝ている議員がいる。大臣席でも与党席でも、野党の席でも。これではやっぱり政治は駄目だということになる。

一人からはじまる
 政策を実現するのは政治だから、政治は駄目だと言ってしまったら何もできない。こういう時には、疑問があると思ったら、まず一人が動き出す。一人から始まるんですよ。何でも。 私がとても象徴的だと思うのは、アメリカがベトナムと戦争をやっていた時に、「ベ平連」という市民組織が誕生した。これは日本の市民の歴史として特筆されるべき動きだ思う。最初のきっかけは高畠通敏さんという政治学者が、ベトナム戦争からアメリカは手を引けと言わなければならないと考え、運動を起こそうと思う。鶴見俊輔さんが「そうだね、やろう」と言った。小田真実さんも「よしやろう」と言って大阪から出てきた。私、市民運動ってこういうものだと思う。だから、まず誰か一人がやろうと思ったら、この人はどうかなと思う人に声をかける。1が次の1になったら、この人が5人か、10人ぐらいに声をかけたりして、その10人がさらにその先でもっといっぱいというように…。

小さな人間が動かなければ政治は変わらない
 小田さんは「大きな人間は、大きな力を持つ。小さな人間は小さな力を持つ。だけど大きな人間が何かやろうとするとき、それを実行するのは小さな人間だ」と言う。「戦争を考えてください。将軍が戦争を決めて戦おうとするかもしれないけれど、最前線に行って戦って死んでいくのは小さな人間である。しかし、小さな人間が嫌だと言ったら大きな力は失われる。大きな力は何もできない。」と繰り返し言っていた。「小さな人間から全ては始まる。小さな人間が動かなければ政治は動かない。」とも。その小さな人間の半分を占めているのは女の人。女の人たちは自分の体験として、あるいは母や祖母の体験として、女たちがあの戦争でどんなに犠牲を払い、どんなに辛い目に遭ったか、そして日本に侵略された側の女たちにどんなに苦しみを与えたか、ということをよく知ることができる。それは女の、小さな人間の持っている特色としてあると思う。だから日本中の女たちが頑張ったら、この国は明日にも変わるだろう。
 私は一人ではない。みなさんといっしょ。みなさんもある地域で孤立しても、ちょっと離れたところには、あなたと志は一つだと思える人は今日本中に大勢いる。そしてその人たちは今拡がっている。もっと拡げて「海外に自衛隊を出すな」、次には「自衛隊を縮小せよ、日米安保を考え直そう」と言う。そういうことで、私たちの生活を守っていく、そういう力になりましょう。ご一緒にいきましょう。

 

観て・読んで みませんか?   憲法九条の大切さを多くの人に伝えるために

講演の中で澤地さんが紹介してくださった映画と書籍をご紹介します

映画「サラエボの花」

 内戦ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争下、収容所の中でセルビア人兵士に犯され、その結果生まれた少女と、
その子を抱えて必死で生きた女性を描いている。非道がまかり通る時に、女たちにどんな運命が待ち受けている
のかという痛烈なメッセージである。犯した男は、我が子が生きているなどとは夢にも思っていないにちがいな
い。だからこれは男たちに対する悲劇のメッセージでもある。

 

井上光晴 詩集「三人」 

 一人息子の乾(けん)を徴兵から逃れさせるために、光晴は、喘息体質の乾に松葉をいぶした煙を吸わせ喘息
のひどい発作を起こさせる。それでも兵隊にとられるかも知れないと、三人は、山中湖畔の粗末な小屋で過ごす。
息子乾を中心として結ばれた家族愛が、この戦争によって奪われまいとする強い思いが込められた作品。
子を思う光晴の詩「この部屋だけには戦争を入れない。子がさらわれるその日まで。楽しさよ続け、乱されるな。
人別よ(戸籍のこと)焼けてしまえ。誰もボコ(乾の愛称)を覚えているな、忘れてしまえ。手のひらにもみ込
んでしまいたい。帽子の裏に隠してしまいたい。」が強く胸を打つ。

 

市原悦子さんが朗読なさった絵本を紹介します

野坂昭如戦争童話集 
『凧になったおかあさん』 NHK出版

いまよりも すこしむかし、にほんが せんそうをしていた ころの おはなし です。
カッちゃんは おとうさんがせんそうに いって しまったので、
おかあさんと ふたりで くらして います。
きんじょの ともだち、イッちゃんとげんきに あそび ながら、まいにちを すごしていました。
しかし、そらからの こうげきに よって、
カッちゃんと おかあさんはひの なかを にげまわります。
でも、もうどこにも にげみちが なく、
ひは さらに ふたりを おいつめて いきます。
そんななか、あつい というカッちゃんの ために
おかあさんは いっしょうけんめい、みずを あげようと します。
あせ、なみだ、ち…
からだじゅうの すいぶんを ぜんぶ
あたえつくした おかあさんは、それでも
まだ やってくる あつい かぜから カッちゃんを まもるため、うえに かさなって…(略)

 

あまんきみこ作  『ちいちゃんのかげおくり』
    (あかね創作えほん 11) あかね書房 (小学校三年生の国語教材にもなりました)

かげおくりという遊びをちいちゃんんに教えてくれたのはお父さんでした。
          (略)
次の日、お父さんは白いたすきをかたからななめにかけ、日の丸のはたに送られて列車に乗りました。
「からだの弱いお父さんまでいくさに行かなければならないなんて」お母さんがぽつんと言ったのがちいちゃんの耳に聞こえました。
ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。
ばんざいをしたかげおくり、かたてをあげたかげおくり、足をひらいたかげおくり、いろいろなかげを空に送りました。
けれどいくさがはげしくなって、かげおくりなどできなくなりました。
この町の空にもしょういだんやばくだんをつんだひこうきがとんでくるようになったのです。
広い空は楽しいところではなく、とてもこわいところに変わりました。
夏のはじめのある夜、くうしゅうけいほうのサイレンでちいちゃんたちは目がさめました。(略)

       

全体会での報告 

               第3分散会を担当して          志田 なや子

 第3分散会は、質問も含めて20人の方に発言をしていただきました。そのすべてをご紹介することはできませんので運動を広げるために工夫し、得意技を生かしたという経験をいくつかご報告したいと思います。
 「映画人九条の会」からは、憲法についての映画を作って普及するということで、『日本の青空』の例が出されました。これからもいくつかの映画が作られるようです。「宗教者九条の和」では、共同の輪を広げるということで、創価学会の方も呼びかけ人に加わって、共同の輪を広げようとしているという発言がありました。栃木県の方からは憲法について紙芝居を使って訴えているということです。札幌市の「年輪九条の会」、年輪ですから年齢層の高い方の会ですが、若者に戦争経験を語るということで、映画やビデオ、また、スライドを利用してこういう取り組みを進めているということです。「大阪宗教者九条」の会は、若い人向けに、やっぱり語るだけではちょっと難しいので、スライド、映画、パワーポイントを使って若い人たちに見てもらっているということです。80歳の方がパワーポイントをつかうなどの工夫をなさっているのです。
 各会で手作りのポスターを作っていて、ここでお見せできないのが残念ですけれども、非常に綺麗な手作りのポスターです。
 それから、若い人向けにインターネットのブログをやっています。お金の面でも、「9条寿司」を作ってお祭りに売っているという報告がありました。このほか、手作りの絵葉書、それから、「ワンコインカンパ」で沢山集めているということが訴えられました。
 そんなことで、本当に創意あふれる取り組みがなされているということを感じました。

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