女性「9条の会」ニュース6号 2007年2月号

国民の運命に直結する「参議院選挙」  

 女性九条の会では、六月一二日に呼びかけ人会議を開催して、今後の方針などを話し合い、国民投票法案が通過した今、一層気を引き締めて「憲法を守れ」の世論を盛り上げるために力を尽くそうと決意を新たにいたしました。

 安倍首相は、「戦後日本の枠組みは、憲法はもちろん、教育方針の根幹である教育基本法も占領時代につくられたもの」として、これら「占領時代の残滓(ざんし=のこりかす)」を棄てる。そのためには「憲法の改正こそが、(日本の)『独立の回復』の象徴」と主張し、この具体的実践として、充分な審議もせずに「教育基本法」を改悪し、改憲手続きのための「国民投票法案」を強行採決しました。
 彼はまた、アメリカとともに「戦争をする国」になりたいと、防衛庁を「省」に格上げし、「集団的自衛権」を検討するために、「安全保障再構築懇談会」(柳井俊二元駐米大使)を首相の私的諮問機関として発足(五月一八日)させ、「米軍の艦船が攻撃された際、自衛隊や艦船は反撃できるのか」などの審議を始めています。 しかし、四月の読売新聞世論調査では「改憲支持は三年連続減」を示し、戦後六〇年間の憲法の役割を(大いに)(多少は)評価している」が八五%にもなっています。内閣支持率もぐんぐん低下し、ついに六月一五日の時事通信の世論調査では二八・八%にまで急落しました。
 こうした変化の背景には、女性九条の会を含む、全国の九条の会の草の根の運動が大きな要因になっているものと思われます。しかし、こうした世論の動向を喜んでばかりはいられません。 今私たちに必要なことは、改憲案の内容を、例えば「九条一項を残すから平和は守られる」と自民党は言うけれど、「九条二項の削除は、戦闘行為に突き進むことの表明」であることなどを、政治に無関心な人々に知らせていくことです。「憲法を守れ」の世論を過半数にするために残された日々は、三年しかないのですから。
 参議院選もまた、私たちの意志をはっきり示すチャンスです。今ここで、自・公連合を過半数割れに持ち込むことは、改憲阻止への確かな一歩になる筈です。 

 

見逃せないニュース

●教科書検定で高校の歴史教科書から沖縄戦の「集団自決」に関する日本軍関与の記述が削除された。沖縄県では、まず県議会で検定の撤回を求める意見書を可決、続いて全ての市町村議会で可決した。

●自衛隊の「情報保全隊」約九〇〇名が国民の監視活動を行っている。憲法で認められた国民の自由を自衛隊が監視、その人件費や活動費は国民の税金で支払われている。

●教育関連三法案(学校教育法・地方教育行政法・教員免許法)の一部を改正する法律案が強行採決によって可決・成立した。愛国心の明記、教委への文科相の介入、教職員の管理・統制が特徴。

●米下院外交委員会は二六日、「従軍慰安婦問題」をめぐる対日謝罪要求決議案を採決した。国会議員や評論家ら四四名が米紙に掲載した「旧日本軍が強制的に慰安婦にさせたとする歴史的文書は見付かっていない」との全面広告に、
米国内の反発が強まり、予定通り実行した。

 

・・・・・ 着々と進む改憲への準備 ・・・・・
改憲手続法の成立

九条の会事務局  小沢 隆一

 さる5月14日、多くの参考人・公述人が疑問や問題点を指摘し、与党推薦の人も含めて慎重な審議を求めた改憲手続法が、参議院で自民・公明などの賛成多数で可決、成立しました。この法律は、参議院の憲法調査特別委員会で18もの附帯決議がつけられたことが物語るように、最低投票率制度の欠如、国民投票運動の規制、国民への周知期間の短さなどの点において不具合も甚だしい法律です。憲法改正の是非についての国民の真正な意思を問うことがおぼつかないこのような法律を拙速な審議によって成立させてしまったところに、改憲派議員たちの「魂胆見た
り」という思いでいる人も多いことでしょう。

広がる「憲法9条守れ」の声
しかし、こうした改憲に向けた動きが進む一方で、国民のなかには「憲法9条守れ」の声が確実に広がっています。私は1年少し前まで静岡にいましたが、その地の「静岡新聞」が04年から06年にかけて行った憲法改正問題についての県民世論調査では、「9条改憲に賛成」との回答が、51%、46%、38%と目に見えて減っています。同紙は「県内外で九条の会が続々と誕生し、浸透しつつあるのも要因では」との佐藤博明静岡大元学長のコメントを紹介していますが、「まったくその通り」だと思います。

改憲発議を許さない分厚い世論を
とはいえ、改憲手続法にもとづいて次の国会から「憲法審査会」が設置され、改憲に向けての議論が進められること、来る参議院選挙で自民党が 「2010年の改憲発議をめざして国民運動を進める」という公約を掲げていることは重大な局面を意味しています。
 それでも、国民の多数が9条改憲に反対していること、特に9条改憲賛成の意見の人でも「自衛隊の海外派兵の推進」を理由にする人はごく少数であることは、現在の動きの本質を国民がしっかりと見極めることができれば、9条改憲を阻止することができることを示しています。そうした国民世論の下では、改憲の発議も容易ではないでしょう。改憲手続法は、それが発動できない状況を作り出せれば、恐るるに足りません。

 全国に広がる6000の九条の会が創意工夫をもって旺盛に活動をすすめれば、国民の過半数を9条改憲阻止の輪の中に迎えることができるでしょう。女性の会のみなさんがそうしたとりくみの随所でそのお力を存分に発揮していただくことを願ってやみません。

Vive la Paix ! (平和 万歳!)

 

憲法と教育

前日本教育学会会長    堀尾 輝久

 教育基本法「改正」、教育3法「改正」、教育再生会議中間報告と、教育「改革」をめぐる状況は騒々しい。「改正」が何のために、教育はどこへ行くのか。学校から自由が、教育から人間が消えていく状況に拍車がかけられている。この道は教育再生どころか、破滅への道でしかない。しかも、この動きが、これだけ矢継ぎ速やで強引だと、いきつくところまでいけと、あきらめの気持にもなる。
 しかし,その結果は、子どもたちが犠牲になるのだから、手をこまねくわけには行かない。一方でこの動きを厳しく批判しつつ、他方で、子ども達と向き合い、競争と選別、評価と管理の教育を実践的に組みかえていく努力が求められている。
 それにしても教基法改悪後の政策動向は異常である。それは一口で違憲的状況だと言ってよい。私もこれまで、新教基法案の違憲性を強く訴えて「改正」に反対してきた。 
 しかし、新法には「憲法の精神にのっとり」という文言がのこされた。さらに、新教育基本法及び改正教育三法も現憲法の下での、下位法であることも明らかである。これらの法の解釈、適用は合憲的になされねばならない。

 教基法改正の狙いが、価値観(とりわけ愛国心)教育の押つけ(新2条)と共に、それを可能にするため、10条(教育行政条文)を改正し、第16条及び第17条を設けたことは国会討議を通しても明らかになった。これらの条文が違憲だと批判することも可能である。しかし、「改正」された現在では、その合憲的解釈をとことん追求してみることが求められてもいる。第16条(教育行政)にはこうある。「教育は不当な支配に服することなく、この法律および他の法律にもとづいて」おこなわれねばならない、と。しかし、当然のこととして、この法律の解釈は憲法を前提とし、国際条約とも適合的であることが求められる。人権規約、子どもの権利条約はもとより、世界人権宣言やユネスコ学習権宣言、ILO、ユネスコ勧告等も参照されねばならない。「他の法律の中には、教育関連法規のみならず、慣習法、そして条理法も含まれる筈である。これらの法体系の中で、学習指導要領や教育委員会の「通達」などの合憲性・合法性は吟味されなければならない。最高裁学テ判決(1975年)等も参照されてよい。
 とりわけ、憲法についてはそれが教育関係法規の上位法であることの意味は、憲法そのものに教育に関する基本原則が含まれているということである。憲法上の明示的教育規定は26条であるが、教育は幸福追求の権利を前提として、精神的活動の自由と表現の自由(第19条、20条、21条)と不可分であり、さらに学ぶ権利(23条)こそが、教育への権利(26条)を支えているのである。国際条約や条理の展開はこのような憲法解釈を励ますものである。さらに人権としての「子どもの権利としての教育」は平和なくしては実現しない。9条の精神は教育の条理(道理)に通底しているのである。 
            

 

読んで見ませんか? 憲法九条の大切さを多くの人に伝えるために
「ねじ曲げられた桜と軍国主義」   大貫恵美子著

 著者はウイスコンシン大学教授、アメリカ学士院会員の文化人類学者である。日本語でも何冊かの著書があるが、注を含めれば600ページにも及ぶこの著では、膨大な文献と資料に基づく豊富な文化人類学の知識を駆使し、日本の国花「桜」の持つイメージを分析し、その5分の4ページをを用いて、明治維新以来、富国強兵を国是とした我が国が軍国主義化していくなかで、いかに桜のイメージがねじ曲げられていったか詳述する。中でも特攻隊員たちの手記から、彼らが死をいかに受け入れていくかの記述を読むと、二度と戦争をしてはならないと強く感じさせられる。                                            岩波書店、2003 

「戦争中毒」    ジョエル・アンドレス著   きくちゆみ訳

 アメリカは10年に1回は戦争をしています。反戦マンガ「戦争中毒」は、現在大学で教鞭をとっている著者が学生時代に書いた作品ですが、アメリカ建国以来の歴史をたどりながら、その原因を見事に解き明かしています。 戦争で儲ける一握りの人間、それに群がる政治家たちによって引き起こされる戦争の陰で、福祉や教育予算をとことん減らされていくアメリカ国民、殺される世界の人々。彼らの本質を見抜いて世界中がNO!と言わない限りアメリカの戦争中毒は終わらないと、この本は訴えています。
若い世代にぜひ読んでほしい一冊です。     1300円+税  合同出版 03-3294-3506


子どもたちに見せない運動の展開を!

DVD「誇り」

 日本青年会議所(JC)が制作したアニメDVD「誇り」が、中学校や地域に持ち込まれようとしています。内容は日本の侵略戦争と植民地支配を美化したものです。問題なのは文部科学省が研究委託事業として採用したことです。授業でこのDVDを上映した上で中学生に分からない史実や語句をチェックシートに記入させ、青年会議所の人も加わってグループ検討をおこなわせます。公教育の場に誤った戦争観を一方的に教えることになります。我が子が通う中学校や教育委員会に「このような授業をおこなわせないで!」と全国各地から一斉に申し入れが行われ、JCは文科省との契約をしないことを決定しました。あらためて草の根からの機敏な運動の大切さを実感します。