女性「9条の会」ニュース52 号 2021 年11月号

 

1面  

  人権と民主主義の前提                                                                      

                                             志田 陽子(武蔵野美術大学教授・憲法学)  

  憲法は、私たちが持っているさまざまな権利(人権)と、民主主義のしくみ、国政のしくみを定めている。その憲法を改正するか、しないかの議論が今後、本格化するかもしれない。今後の議論は「憲法にそう書いてあるから」というだけでは通用しない。「この国(社会)にはこうあってほしい」と言える意志が必要だ。私たちは、そうした意志をもった主体として、今後の議論を担っていけるだろうか。 現在の憲法は、かなりの部分、この意志を前提として成り立っている。 さまざまな権利は、使う意志がある人を前提にしているし、民主主義も、選択の意志を持った人々を前提にしている。「憲法に書いてあるのだから黙って放っておいても、そこに書かれていることが確保されるはずだ」と安心するのは大きな誤解で、世の中には今でも人権侵害がいたるところで起きているし、人権保障がきちんと具体化(立法化)されずに「絵に描いた餅」状態のままになっていて、いざというときに裁判では使えない、といったことも多々ある。 このとき、自分が持っている権利の使い方を知らない人にとっては、憲法上の人権保障は、無意味になってしまう。本来の教育は、まずそこから始めるべきだと思うが、現在の教育は、自分に保障された権利を主体的に使う「使い方」の教育にはなっていない。さらに、「自分にはそんな贅沢品を使う余裕などない」と思って諦めている人にとっても、人権保障は無意味になってしまう。 憲法上もっとも重要な権利である「法の下の平等」を考えてみると、不利な状態に置かれた人々ほど、この状態に陥りやすい。アメリカの人種差別克服の歴史を見ても、日本の例を見ても、不利な立場にあった人々が平等を求めて声を挙げようとすると、感情的に叩く反応を受けやすい。それが暴力や「ヘイトスピーチ」という形で出てくる。そのため、不利な側にいる人々は、「声を挙げればさらに傷つく」という無力感を先取りしてしまい、権利を使ったり政策議論を求めたりすることを考えなくなっていく人々と、それではダメだと激しく奮い立つ人々とに分かれてしまい、奮い立った側の人々が「悪目立ち」してさらに苦境に立たされる。  人権は、今も繰り返されるこの悪循環を克服しながら徐々に勝ち取られてきたもので、今の日本はまだまだその途上にいる。絵に描いた餅になったままで、実現できずにいる人権も多い。「平和のうちに生存する権利」が憲法前文に明記されながら、裁判所がこの権利を権利として認めようとしない現状、婚姻の自由が謳 われながらLGBTQはそこから排除されている現状、男女平等を言うのは陳腐なことのように揶揄されるが、政治や経済社会の実態は平等には程遠いという現状、「健康で文化的な最低限度の生活」がすべての人に確保されているとは言いがたい現状、「教育を受ける権利」が「学校に通い管理を受ける義務」に転じてしまい、「権利」であることの本来の意味が見えなくなっている現状、そしてコロナ政策が、各種の現場のニーズと専門家の知恵を結集した結果のものになっているとは言いがたい現状、など…。 では、まだ完全には実現できていない人権を、どうやって確保していくのか。 ひとつには裁判のルートがある。ところが今、裁判所が憲法に関する解釈や判断を極端に避ける傾向が強まっている。もう一つは民主主義のルートがある。信頼できる議員に《議論をする仕事》を託す、必要に応じてさらに請願をする、といったことである。しかし今、議論をする場である国会が、憲法が期待したような民主主義の議論の場にはなっていない。 ここで、それは国民が選んでしまっていることだから仕方がない、と諦めるのは早い。どんな病気も、まずは「こういう病気で、こういう症状がでている」と「知る」ことでようやく、「治さなくては」と思うことができる。知ったショックで治す意志を失ってしまうのはもったいない。まずは「知る」ことから始めたい。
 
                                           
 
                                       

2面〜8面             女性「9条の会」学習座談会報告
                      
                                
日時 2021年11月6日  於 文京区立男女平等センター
 
      米中対立と日本の針路─憲法9条の活かし方

                
           
       
            講師 布施 祐仁 さん

                    (布施 祐仁)

 

  今回の総選挙であまり争点にはならなかったのですが、私は、日本をめぐる安全保障は、第2次大戦後最も危険な状態になりつつあるのではないかと見ています。ですから、ここで舵取りを間違えると戦後私たちが守ってきた平和が非常に危うくなります。そういう意味で非常に大きな分岐点に今は差し掛かっていると感じています。

■米中対立の時代


 冷戦崩壊後、アメリカが世界の超大国として君臨してきたわけですが、そのアメリカの力が相対的に弱くなって、替わって中国が急速に台頭してきている。最近は少し経済成長も落ちつきつつありますが、この 年ぐらいは年 %程度の経済成長を遂げていました。驚異的な経済成長を重ねてきて、それに応じて軍事力も増しています。  人類の歴史を振り返ってみても、ローマ帝国やオスマントルコなどいろいろな帝国がありましたが、その帝国は力を何百年も続けているわけではありません。力を増すときもあれば衰えるときもあります。衰えたときに新たな帝国が登場します。そういう歴史の繰り返しだったと思うのです。アメリカのハーバード大学の研究者が過去500年の人類の歴史を点検してみて、その時代の覇権国に新たな新興国の力が近づいたときにどうなるかという歴史を追求したところ、かなり多くのケースで戦争になってしまっているという記事が出ています。そういう意味では急速に中国の力が米国に近づいていっている状況の中で、非常に不安定になっているということは言えるのではないかと思います。万が一にもこの2つの国が衝突したときに、どこが戦場になるかというと、アメリカと中国に挟まれている日本であり、台湾であり、東南アジアであるわけです。東アジア一帯が中国とアメリカに挟まれているので、巻きこまれる危険性が高いのです。  かつて米ソ冷戦時代はヨーロッパが最前線でしたが、今の米中対立の時代においては、東アジアが最前線にならざるを得ないのです。だから、ここで日本がどういう政策を取るかで、日本の平和は大きく変わってくると言うことができると思います。

■総選挙後の焦点


 本来であれば選挙で、そういうことも大いに議論をして、国民の意志で政治を選ぶべきだと思うのですが、残念ながらコロナのために生活も大変で、経済が争点にならざるを得ませんでした。安全保障政策などは争点にはなりずらいところがありますね。  自民党は「政策パンフレット」と「政策バンク」という2つの政策案を出しています。「パンフレット」には重点政策を入れていて、「政策バンク」に、安全保障政策が書かれています。岸田総理のもとで書かれたと書いてありますが、安倍元総理が書いたと感じるくらいタカ派的な、これまで書けなかったことまで踏み込んで書いています。象徴的なものは「敵基地攻撃能力」です。これまで日本は、日本の領域及びその周辺の公海までは攻撃できるけれども他国の領域には攻撃しないということでやってきたのですが、「敵基地攻撃能力」というのは、北朝鮮や、中国のどこにでも自衛隊が出ていって攻撃できるというものです。安倍さんは首相辞任直前に敵基地攻撃能力保有を検討するという談話を出しました。菅政権は「敵基地攻撃能力」という言葉は避けていましたが、岸田総理は、「敵基地攻撃能力」を、今回の選挙の自民党政権公約にも明記しています。さらには防衛費の大幅増額があります。これまではGDpの1%だったのを、2%を目安に引き上げると言っています。今5兆円ですが、それを 兆円にするというかなり大胆な事を言っています。こういう重大なことが政権公約に明記されていたのです。そういう形で政権公約に入れて、今回選挙で多数を取って、今の政権が続くことになりましたので、当然こういったことが起こってくると思います。

■なぜ今「敵基地攻撃能力」保有か


  アメリカの有力なシンクタンクに、CSISがあります。アーミテージという名前を聞いたことがありますか?ジャパンハンドラー、つまり日本を手の平に乗せて動かしている人たちです。そういう人たちが関係しているシンクタンクです。ここが、今回の総選挙の結果についての分析記事をホームページに載せています。例えば岸田政権が掲げる新しい資本主義はただのレトリックだとかも書いてありますが、安全保障のもとで彼らが注目しているのは、敵基地攻撃能力であることを明らかにしています。中国の軍備増強などを念頭に「同盟国として潜在的な脅威に立ち向かい、地域の平和を維持するための能力が重要だ」と強調しています。そのあとに、日本が敵基地攻撃能力を導入するにあたっては、日米の指揮統制を統合させる必要がある。指揮統制というのは軍隊の指揮のことです。軍隊は常に司令部が命令をして、その命令に従って一体となって動かなければならない、日米の指揮を統合する、つまり米軍と自衛隊は一つの指揮のもとに行動するようにしなければならない。もし日本が敵基地攻撃能力を持ち、自衛隊を北朝鮮や中国の本土に対して攻撃作戦を行うとすれば、米軍と一体となって、指揮も一体となって行う。一口にいうと米軍の指揮のもとに自衛隊が入るということです。これは要するに米軍の攻撃作戦に日本が組み込まれるということなのです。これは重要な点だと思います。  敵基地攻撃というのは簡単ではないのです。攻撃するには目標を設定しなければならない。まず、標的がどこにあるのかの情報が必要です。近いところならドローンを飛ばせばいいわけですが、日本の場合は、北朝鮮にしても中国にしても、海を隔てているわけですから、どこに標的があるのか、どこを攻撃するのかを決めるためには監視をしなければならない。どうやって監視するかといえば、今は宇宙なんです。衛星で空から監視して、あそこにミサイルがある、この基地から、今攻撃を行おうとしているとか、戦闘の準備をしているとか…。衛星というのは地球を回っていますから、一つのところに留まっているわけではなく、ぐるぐる回って見ているわけですので、一つの衛星だと何日間に一回しか中国の上空とかを飛ばないけれど、何百という衛星を飛ばすことで、中国や北朝鮮を監視することができるので、アメリカは無数の衛星を地球上に打ち上げています。このような衛星コンステレーションはものすごくお金がかかるのです。アメリカはずーっと中東で戦争をやって、えらくお金を使っているのでそんなに軍事費は増やせない。むしろ減らさなければならない。その中で宇宙に膨大なお金をかけて衛星を打ち上げているわけです。そこで彼らは日本をそこに巻き込むわけです。日本も敵基地攻撃をやると言っていますが、膨大な衛星を上げるお金もないので標的の情報をアメリカに頼るわけです。アメリカもただで情報をくれるわけありませんから、情報がほしいなら分担しなさいということでお金を出させる。「情報をあげるけれども、我々の指揮に従ってください、これが条件です」ということで敵基地攻撃能力は完全にアメリカの戦略に自衛隊が組み込まれているという体制になるわけです。

■アメリカの国防戦略


  なぜ今こういう動きが出てきているかというと、アメリカ自体が米中対立の中で、中国の本土を攻撃できる能力を強めようとしているのです。アメリカは中国に対抗するために、地上発射型中距離攻撃用ミサイルを開発し始めています。この地上発射型中距離攻撃用ミサイルを今までアメリカは持っていなかったのです。中国は1000発以上配備しています。当然、朝鮮半島、日本、台湾も攻撃範囲になっています。それに対してアメリカは一発も持っていません。なぜかというと冷戦末期、当時はレーガンとゴルバチョフだったと思うのですがINF条約といって、中距離ミサイルをソ連もアメリカもお互いに廃棄しましょうという条約を結びました。この条約は、1989年に結ばれましたが、2019年、トランプ政権のときにアメリカが破棄しました。その破棄したミサイルを再び配備するとまた言い出しているわけです。破棄した一方のロシアがルールを守っていないという理由だったのですが、本当の理由は中国なのです。中国が中距離ミサイルをたくさん配備しているのに、アメリカは一発も持っていないのでギャップが生まれます。そこでその条約を破棄して、これから中国に対抗して中距離ミサイルを配備しようということになったわけです。アメリカの陸軍はこの中距離ミサイルの開発を進め、2023年までに配備すると言っています。しかし、中距離ミサイルは射程が500キロから2〜3000キロなのでアメリカ本土からでは中国に届かないので、中国に近い日本に配備するというわけです。  中国に対抗してミサイルを配備するとしたら、九州から奄美大島、沖縄本当、宮古島、石垣島、与那国島、台湾、フィリピンやボルネオ島まで連なるところ、これらを第一列島線と呼びますが、そこにアメリカは中国に対抗してミサイルを配備しようとしているのです。  これに対して、先日の自民党の総裁選で今度政調会長になった高市氏は「必ず必要だ」と、積極的にお願いしたいという感じなのです。しかも日米安保条約上、日本は断れないのです。断る権利がないのです。アメリカは日本に核兵器以外は何でも配備できるようになっています。日米安保条約では、核兵器の配備は事前協議の対象となりますが、ミサイル等の通常兵器には適用されないので、何も言えない形になっています。

■INF条約ができた経緯


  ではなぜINF条約ができたかというと、ソ連が中距離ミサイルをたくさんヨーロッパに配備していたのです。アメリカも中距離ミサイルをドイツや西ヨーロッパに配備していました。となると、ソ連とアメリカが戦争になるときにどこが戦場になるかというと、ソ連でもなくアメリカでもなく、間に挟まれたヨーロッパが戦場になるということです。まして、核ミサイルが配備されていたので、もしソ連とアメリカが戦争になった場合はヨーロッパが核戦争の戦場になるのだと言って、ヨーロッパで空前の反核運動が起きました。 万人規模のデモが盛り上がって、その結果最終的に運動が後押しをしてINF条約が結ばれたわけです。  当時アメリカの中距離ミサイルを配備するために作られたアメリカ陸軍のミサイル司令部は、この条約ができたおかげで解体されました。これがつい最近復活しました。なぜなら、INF条約がなくなったので、アメリカは、ヨーロッパにも中距離ミサイルを配備させるために、司令部が復活したのです。おそらく今後アジアでも起きてくる、というよりアジアこそが最前線になるのです。

■戦場になるのは日本


  中国とアメリカが戦争をした場合、中国本土とアメリカ本土の間でミサイルを撃ち合うわけではありません。アメリカの代わりに日本に配備されたミサイル基地が中国に対して攻撃をすることになります。中国もアメリカ本土を攻撃するのではなくて日本を攻撃する。日本と中国の間でミサイルの撃ち合いになるのです。アメリカは中国と戦争をするけれども、自分たちは傷つかないのです。日本に代わりになってもらうのです。これが中距離ミサイルなのです。  こういう状況が、日本人がほとんど知らないうちに着々と準備が進められていて、こういうことが日本で話題になる頃には、もう、外堀が全部埋められているということになりかねない。 しかも中距離ミサイルが危ないのは、実は、このINF条約は「中距離核戦力全廃条約」と呼ばれているのですけれども、禁止しているのは核ではなくミサイルなのです。なぜかというと、そのミサイルが核なのかそうでないのか、外から見たらわからないのです。相手は、例えば日本に配備するとして、「これは核兵器ではないですよ」といくら口でいったところで、信用しません。しかもアメリカとソ連が撃ち合うとしたら、着弾するまでに時間がかかるわけですが、日本になら撃ったら数分で着弾します。少なくとも1時間以内に着くわけです。だからすぐ反撃をしなければいけない。となると、やはり、相手の読み違いとか、本当は核ではないのに勘違いしてこちらも核で反撃してしまうということが起こりやすい。だからヨーロッパでは盛り上がったのです。  これと同じことがこれからアジアで起こり得る状況なのです。実際アメリカは、これからアジアに配備する中距離ミサイルはあくまでも核ではない、通常のミサイルだと言っています。でも中国が、ロシアが、信用するかということなのです。外から見分けは付きません。当然核弾頭がついているという前提で、中国やロシアは備えます。どう備えるかというと、いつでも日本に対しては核ミサイルを撃ち込めるような準備をするでしょう。そういう危ない状況が3年、4年の間に起こって来るという状況になっています。  トランプ政権からバイデン政権になっても、基本的には対中戦略は継続しています。つまり、中国との競争を国家安全保障の最前線においているということなのです。2018年のアメリカの「国防戦略における戦略的競争」でみると、アメリカの姿勢がよくわかりますが、アメリカの軍事的能力は劣化しています。そしてアメリカの国家安全保障は「対テロから大国間の競争」に転換するのだと言います。大国間というのは中国とロシアですね。中国は経済的、軍事力で台頭する、近い将来中国が覇権を追求し、アメリカを追い出そうとしている。そしてグローバルに権力を手にする。これもアメリカは許せないということで、中国に対抗する。

■急増する中国の覇権

 


 実際中国は、国防費を急増させています。過去 年間で 倍になっていて、今、世界第2位です。通常戦力では中国が圧倒しています。航空機の数でもミサイルの数でも、日本とアメリカを足しても中国は優位に立っています。しかも軍事的に活発化させています。台湾の防空識別圏の範囲で4日間で100機もの飛行機を飛ばしたり、日本に関することでは尖閣諸島の日本の領海内に連日のように工船を侵入させたりといった活動を活発化させています。中国はなぜそういう形で軍拡を進めているのかというところなのですが、これについては中国は「介入阻止」と言っています。  一言でいうと台湾ですね。1996年に台湾危機がありました。台湾で初めて選挙で総統を選ぶことになりましたが、そのときに中国独立を掲げた李登輝という人が有力視されていたのですが、それに対して中国はミサイルを台湾の目の前に撃ち込む訓練をしたのです。その時アメリカは横須賀にある空母と中東にいたもう一つの空母を出動しました。結局中国は矛を収めて危機は収まったのですが、そのときに中国は、はっきりと目標を定めたのです。いざ台湾で有事が起こったときには、アメリカ軍が介入をしてくるが、その介入を阻止するためにはアメリカ軍を近づけさせないことが大切というので、ミサイルを配備して、それを抑止力として、空母やたくさんのミサイルを 年間作り続けてきました。中国の立場はそれ以来変わっていません。言っていることは昔からずっと一緒です。

■中国の介入阻止戦略


  台湾は中国の不可分の領土であり、「核心的利益」である。平和統一をめざすが、「台湾独立」に対しては武力行使も辞さない。つまり台湾はもともとは一つの中国という立場だったのです。なぜかというと、台湾は、中国の共産党と国民党との内戦によって、国民党が共産党に敗れて台湾に逃げてきた。そこで台湾という国を作って実効支配してきたのであって、台湾の政府は我々こそが中国を代表する政府なのだ、いずれまた大陸に攻勢をかけて、我々が中国を作ると言っていたのです。お互いに中国は一つだと言っていたのです。そして我々が中国を代表する政府なのだと言っていたのです。しかし、最近10年かそこらで徐々に変わってきて、台湾で生まれ育ってきた人たちが政治を担うわけで、台湾は中国とは別なんだと考える人が増えてきました。そこで状況が変わってきたということです。中国は独立は絶対に許さない。それに対しては武力を使ってでも阻止すると言っています。  今年7月1日、中国共産党創立100周年というイベントがありました。その時習近平国家主席は「台湾独立のたくらみを断固として粉砕しなくてはいけない。国家主権と領土を完全に守る決意や強大な能力を見くびってはならない」という姿勢を改めて明確にしました。  2017年 月、中国共産党大会で、国としての目標を「今世紀中頃までに、総合国力と国際的影響力で世界トップレベルの国を目指し、世界一流の軍 隊を建設する」としています。  また、2021年7月1日、中国の習近平国家主席は中国共産党創建100周年で「強国には強い軍は必要で、軍が強くなってこそ国は安定する」「中国人民はいかなる外部勢力も 我々をいじめたり、圧迫したり、奴隷にしたりするこ とを許さない。こうしたことを妄想した者は誰であれ、  億人の中国人民の血と肉をもって築いた鋼鉄の長城にぶつかり、血を流すことになるだろう」と演説し、国民はわーっと盛り上がったということです。これは日本にも共通していますけれども、政治家はナショナリズムを煽るのですね。ナショナリズムを煽ることで統治するのは中国が例外ではありません。最近中国は経済成長が鈍って来ました。永遠に経済が成長し続けるわけはないので、だんだんスピードは緩くなってきますね。その中でどうやって統治するかというと、やはりナショナリズムとか愛国心を煽って国を収めようとする傾向は強まってくるのです。  中国はアヘン戦争から1945年8月 日、日本が降伏するまでの100年間は屈辱の100年だったと見ています、つまりアヘン戦争で破れ、それ以後欧米列強、そして日本に主権を侵害された屈辱の100年で外国に奪われたものを取り返そう、というのが中国の姿勢なのです。なかなか引くことができないというのが現状です。

アメリカの対中国軍事作戦


  一番の焦点はミサイルです。中国のミサイルは1000発と言われています。これまで日本もアメリカも一発も持っていなかった。中国に対抗するためにミサイルを開発することがこれからの焦点になってきます。  中国はすでに日本全域を射程に抑えるミサイルを1000発以上持っているわけなので、もし戦争になったら中国は当然、日本にはたくさんの米軍基地があるので、その米軍基地を狙って攻撃するだろう。すると、アメリカが何十億円もかけた最新鋭のステルス戦闘機や空母などアメリカの資産が数分の間に破壊されてしまう恐れもある。 そこで、アメリカが考えている戦略は、インサイド・アウト防衛構想というものです。内側と外側の2つに分けて戦う戦略です。今日本にいる米軍の主力は一旦全部引き上げてグアムなどの安全なところに移してしまう。主力は全部外側の安全な場所に引き上げ、内側で頑張って耐えるのがインサイド部隊というわけです。それがまさに日本なのです、第一列島線です、ここにたくさんミサイルを配備して中国に対抗して、アメリカの前の壁として戦ってほしいというわけです。アメリカは日本列島を壁として考えているわけです。当然日本は最前線になるわけです。 アメリカはなるたけ自国の兵士は守りたいのでそこは日本の自衛隊にやってもらいたいと考えているのです。  そこで、今南西諸島に陸上自衛隊の配備が進められているわけです。奄美大島、石垣島、宮古島、与那国島といったところに陸上自衛隊をどんどん配備していますね。政府は「中国が島に攻めてくるかもしれない」、「尖閣に攻めてくるかもしれない」ということを理由に説明します。あくまでも日本を守るためなのだと言います。そんなものじゃないです。アメリカが自国を守るために、日本を壁にするための戦略に則って、中国のミサイルに対抗するために南西諸島の島々に自衛隊自身がミサイルを配備しているのです。

■危険な「的基地攻撃能力」保有


 問題はこの島々に配備したミサイルは射程190キロなのですが、それでは中国本土には届きません。今までは東シナ海にいる中国の飛行機を攻撃するためのものだったのです。攻めてきたときに近づく前に攻撃して防ごうというミサイルだという説明でした。しかし昨年末、敵基地攻撃能力を持つために射程を900キロに増やすという閣議決定をしました。そうなると中国本土に届いてしまうのです。去年の閣議決定は、言葉上は敵基地攻撃能力という言葉は入っていないのですが、実質的には中国本土を攻撃できる能力を持つということを決めたのです。更にそれに岸田さんがお墨付きを与えようとしているのは、明確に敵基地攻撃能力の保有なのです。そうなった時、間違いなく北朝鮮や中国本土を攻撃するために使われるという形になります。  2021 年7月8日付『朝日新聞』に出ていたのですが、「 軍事作戦上の観点から言 えば、北海道から東北、九州、南西諸島まで日本全土 のあらゆる地域に配備した いのが本音だ。中距離ミサ イルを日本全土に分散配置できれば、中国は狙い撃 ちしにくくなる」と米国防省関係者がコメントしています。 アメリカとしては今自衛隊は南西諸島を中心に配備をしていますが、そこから日本中に配備をしたいと考えています。中国が1000発持っているなら同じように配備するとなると日本中になります。配備は多ければ多いほどいいということになります。なぜか。 ミサイルを配備した場所には当然中国が狙ってきます。放置すれば自分たちの国を撃ってくるかもしれないからです。中国が狙わなければならない場所は多ければ多いほどアメリカにとってはいい。たくさん攻撃しなければならないところがあったほうが中国にとって負担になるからです。ただの壁ですから、アメリカにとってはいいかもしれないけれど、そこには日本人が住んでいるのです。日本は人口が密集しています。どこに何が落ちたってその周辺には人が住んでいるのです。原発もあるし、海に囲まれているから逃げる場所もない。アメリカは日本人が死ぬことなんて関係がない。最終的に戦争に勝てばいいわけです。そこがアメリカと日本がぜんぜん違うところです。そこに住んでいる我々と、ただの壁としか見ていないアメリカとでは全然意味合いが違ってくるわけです。 でも日本政府はそこに住んでいる人のことを考えないでアメリカに従っている。宮古島の人に取材したところ、「日本政府は私達の声を聞いてくれない。アメリカの方しか見ていない。戦争になると犠牲になるのは私達なのだ」とおっしゃっていました。

■推し進められる「台湾有事対策」


  私は台湾有事が実際に起きる可能性は低いと考えています。むしろ台湾有事が起きるという脅威を煽ってミサイルの配備に使おうとしているのです。   中国には台湾を武力統一する能力はありません。もしできたとしても統治はもっと困難です。中国との統一を望む人がわずかしかいないからです。  もう一つ、経済的な打撃も大きすぎます。中国共産党は経済成長という果実があったから権威を保っています。でも中国の経済成長は何によって支えられてきたかというと貿易なのです。輸出なのです。中国の貿易相手国は一位はアメリカ、2位が香港、3位が日本、4位が韓国、5位がドイツ、6位がインド、全部アメリカの同盟国です。この資本を導入して、そこでものを作って外国に輸出する。対外依存ですね。これで戦争をしたら中国経済も、経済成長も止まってしまうわけです。そういうことを、わざわざ自分で自分の首を絞める事をやるかということなのです。台湾への侵攻が成功する確率は極めて低い。もし失敗したら中国共産党の権威は失墜することになると考えると、そんなことをやるとは到底思えません。どう考えても、台湾有事が迫っているというのは、それを口実にして軍備を強化するため利用しているとしか考えられません。

■挑発合戦から意図しない戦争へ


   でも低いからといって戦争が起こらないかというとそうではありません。実際に戦争をするつもりはなくても、今米中はお互いに軍事的に相手より上に立とうと、ナショナリズムを煽って競争しあっているわけです。先日も南シナ海で日本、アメリカ、イギリス、オランダなどで共同訓練を行いました。それに対抗して中国は台湾に戦闘機を飛ばしました。更にその後、中国軍とロシア軍の艦隊が津軽海峡を越えて日本を一周するような行為をしました。お互いに相手がやるならこちらもやりかえすと挑発しあっています。お互いが一歩も引かない。お互いに戦争をする気がなくても、そういう軍事的挑発をしあっているとなにかのきっかけで偶発的な衝突が起こったり、意図しない戦争が起こったりすることもあり得るのです。歴史を振り返ってもあるわけです。第一次世界大戦も一発の銃弾から大戦争に発展したわけです。そういう状況にかかっているというのが今の状況です。    今日本政府がやっていることは、抑止力という名のもとに、とにかく中国に対抗している。訓練をしたり、ミサイルを配備したり。そうやっていくと軍拡競争に陥って、挑発合戦に陥ってそのまま行ったら戦争が起きてしまうリスクが高まっていくと思います。 。

■日本はASEANに学ぶべきだ

 


  日本の進むべき道は米中の対話と協力を促進し、戦争を予 防する仲介外交を積極的に行う。そして緊張を緩和し、対立・軍拡競争ではなく協 力・軍縮の方向に流れを変えていくことだと思います。  そこで日本は、ASEAN(東南アジア諸国連合)に学ぶべきだと思っています。ASEANはまさにそれをやろうとしているのです。アメリカと一緒になって中国と戦争にでもなったら、戦場になるのは我々じゃないかということで、大国同士が戦争に至らないように間に入って予防するのが、自分たちの役目だということを、すでに方針として持っています。ASEANはここ数年で生まれたものではなく、長い歴史の上に今日に至っているのです。  1967年に創設しますが、当初は反共同盟的性格を持っていました。この当時はベナム戦争やインドシナ紛争などが起こっており、共産主義国家の拡大を防ぐということで生まれたのです。しかし、ベトナム戦争が終結し、北ベトナムが南ベトナムに勝って、カンボジア、ラオスのいずれもが、社会主義体制になります。そのときにASEANは、体制は違っていても少なくとも戦争にならないように、紛争の平和的解決を原則とする「東南アジ ア友好協力条約(TAC)」を1976年に締結します。その後も大国同士の代理戦争を防ぐために対話を続け、アメリカ、中国、 ロシア、インドも招待をして話し合いのテーブルにつけるようにします。2015年、「ASEAN共同体」を設立。マレーシアのナジブ首相は、「東南アジアはアジアの 〈バルカン半島〉として、分裂と紛争の発信源だったが、いまや 地球規模の紛争を 平和的に解決する発信源の一つに 浮上した」と発言し、「友好・互恵的な関係を育む共同体」となって います。  東南アジアの歴史を見れば、冷戦時代はまさに第一次世界大戦時代のバルカン半島のようにあちこちで戦争があったのに、今や平和を発信していく地域になったのです。本当は憲法九条を持った日本がこういうことをやってほしいと思うのですが、残念ながら日本は逆の方向に行っています。東南アジアは九条はないけれども憲法九条を実践するようなことをやっているわけです。

■「日中平和友好条約」


 日本の平和を守っているのは日米安保条約ではない、「日中平和友好条約なのだ」と沖縄選出の議員さんが言っていました。なぜなら「日中平和友好条約」は1978年に締結されたのですが、ここで日本と中国は「すべての紛争を平和的手段により解決し 及び武力又は武力による威嚇に訴えないこ とを確認する」と確認しあっているのです。(1条2) 尖閣諸島についても、武力で解決しないという国家間の合意があるのです。今日本にとって中国はあたかも仮想敵国のように言うじゃないですか、与党の議員は。彼らはこの条約を結んだことを忘れていますね。敵じゃないのです、中国は。お互い武力によって物事を解決しませんよという平和条約があるのです。でも残念ながら中国は尖閣諸島の周辺などで友好的な態度でないことをやっているのは確かです。それに対しては条約をしっかり守るように訴えていくことが大事だと思います。  「日中平和友好条約」にはこういう取り決めもあります。「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平 洋地域においても、又は他のいずれの地域 においても覇権を求めるべきではなく、また、 このような覇権を確立しようとする他のいか なる国又は国の集団による試みにも反対す ることを表明する(2条) 」  単に武力によって解決しないと言っているだけでなくて、アジア太平洋地域では、日本も中国も、その他の国々も覇権を求めるべきではないということで合意しているのです。 中国に対しても、アメリカに対しても覇権を求めるなと言えるわけです。  どこの国も覇権を握らずに協力し合う関係を、アジアに作っていく。日本もASEANに習っていく必要があると思います。