女性「9条の会」ニュース51 号 2021 年7月号

 

1面  

  関さんへ「平和憲法を今にいかす」ため、考え・行動します                                                                     

 当会世話人の関千枝子さんが今年2月21日、88歳で逝去されました。誰にとっても思いがけないことです。コロナ禍のなか、お別れをすることもかないませんでした。
 今、 関さんの存在の重さをかみしめています。多くの国民がコロナによる苦しみ、不安でいっぱいです。その対策に力を注ぐべき菅義偉政権は、6月11日、憲法「改正」手続きを定める「改正国民投票法」を参議院本会議で可決・成立させました。国民は決して憲法改正を認めていないのに。関さんがこの事態について、どう発言し、行動されるか。意見を交わしたいです。
戦争のない世界を子どもたちに渡そう 女性「九条の会」は2005年に結成されました。関さんは会発足の記者会見を取材し、編集長だった『女性ニューズ』の記事に。それがきっかけに07年、世話人に就任されました。以来、毎月の世話人会議に参加するのはもちろん、会主催の講演会のコーディネーターや学習会の講師を務めたり、会報に執筆したりと精力的に活動されてきました。
 憲法集会などにも欠かさず参加。5月3日の「憲法記念日」、有明臨海公園で開かれた憲法集会にご一緒したことがあります。会場あふれるほどの参加者を見ての笑顔が忘れられません。しかし、マスメディアはこの集会を詳しく報道せず、関さんは批判の記事を書いています。
生き残った意味を問う
 『広島第二県 女二年西組』の著者で知られる関さん。1945年8月6日、広島に原爆が投下されたとき、関さんは体調をくずして勤労動員を休み、死を免れましたが、38人の同級生は原爆死。生き残ったことの意味を問い続け、級友一人ひとりのことを書き残したいと、遺族、関係者をコツコツと訪ね歩いて本に結実させました。日本エッセィストクラブ賞を受賞(1985年)し、ちくま文庫で一二刷を重ね、読み継がれています。平和、原爆・核兵器ノーの種を蒔いています。
 緊急事態宣言下、会は講演会などを開けず、世話人会議もなかなか持てません。そのなか、小規模の学習会を開き、ニュースを発行し、二千部を各地の方に届けています。関さんは発送作業に毎回出てこられたことを知り、責任を持つことの意味を感じ取りました。
 一年以上続くコロナ禍で、女性は苦しめられています。非正規雇用労働者には女性が多く、職や収入を失って困窮状態に。家庭でのDV、自殺者の増加。男女平等という憲法の基本の一つがいかされていないことが可視化されています。
女性「九条の会」の、女性の立場から戦争や平和、日本国憲法について考え、いかす、その活動が、ますます意義あるものになっています。
 自民党は「緊急事態宣言」を政府が繰り返すコロナ禍を利用し、改憲案に「緊急事態条項」を盛り込んでいます。加藤官房長官は「改憲の絶好の契機」とまで発言しています。
 これは見逃せません。関さんは「国民がよく考え、行動することが大切」と繰り返し語っていました。今こそ知恵をつくして、九条をいかす運動を広めたいと思います。
                               (女性「九条の会」世話人 只安 計子)
 
                                           
 
                                       

2面〜8面             女性「9条の会」学習座談会
                      
                                
日時 2021年5月30日  於 文京区立男女平等センター
 
      コロナ禍で顕在化した女性差別─メトロコマース事件を中心に

                
           
       
            講師 青龍 美和子 さん

                    (弁護士 )

 

  青龍美和子と申します。私はメトロコマースの契約社員への非正規差別の問題の弁護団の一員として闘ってきました。今日は原告4人の中から2人に来ていただいていますので、現状はどうなっているのか、リアルな話をしてもらいたいと思っています。

■メトロコマース事件とは


 メトロコマースは、東京都が株式の半分を持っている「東京メトロ」の子会社で、地下鉄駅の売店業務を行っています。雇用形態は、期間の定めのない正規の職員と契約社員Aと契約社員Bという3種類ありますが、やってい仕事は同じなのです。一つの売店を早番遅番で交替していますが、仕事内容は全く同じです。一つの店に早番と遅番が二人配属されて一週間ごとに交替しています。正社員と契約社員が組むこともありました。仕事は同じなのですが、労働条件は全く違っていました。正社員は月給制で昇給がありますが、契約社員Bは時給制です。組合ができて、団体交渉をしたことで毎年 円づつ昇給していましたが、時給制ですから5月の連休などがあると店を閉めるので給料はガクンと下がります。 賞与は契約社員Bにも支給されますが、正社員には毎年夏冬に2・5ヵ月支給されるのに、契約社員Bは毎年10万円と決まっています。賞与の差は年間100万円ほどになります。正社員には月給の中に住宅手当があるのですが、契約社員Bには支給されません。また報償といって勤続5年、10年、20年、定年退職時に金一封が支給されるのですが、契約社員Bには報償はありません。最高裁の焦点になっていた退職金も正社員には支給されるけれども、契約社員Bには支給されません。残業代の割り増し率も違います。
 そこで、原告は正社員と契約社員Bとの差額を計算して請求しました。法律上の根拠としては「労働契約法20条」というものがありました。この法律は今年の4月1日から全面的に改正されて「パートタイム・有期雇用労働法」となりましたが、「労働契約法20条」の、「有期契約社員と無期の労働者の不合理な差異を設けてはならない」という項目に基づいて、正社員との差額を損害金として賠償請求をした事件です。結果は全面敗訴ですが、高裁では住宅手当と退職金の4分の1を認めていました。なぜ4分の1なのか理由は分かりませんが…。それに対して、会社側も原告側も上告して最高裁訴訟ということになったわけです。
 最高裁では退職金だけが焦点になりました。結論としては昨年10月に「契約社員に退職金を支給しないことは不合理とは言えない」という判決が出ました。

■差別を容認した最高裁判決

  昨年はコロナの中で、非正規労働者が雇用を失ったり、給与を下げられたりしました。コロナを理由にした差別が許されるのかと訴えたのですが全く聞き入れられませんでした。
 最高裁はなぜ正社員には退職金を支給して、契約社員Bにはしなくてもいい制度になっているかという、その目的の所ですが、「退職金を正社員のみに支給する目的は、正社員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図るなどの目的から、さまざまな部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し、退職金を支給することとしたものと言える」との判断は合理的であるとしています。正社員がキャリアアップのためにいろいろな職務を経験していく、その中には売店業務があったり、事務的業務があったりすることを経て管理職になっていく制度なのだということです。つまり、契約社員Bは売店業務に決まっていて、「売店業務は経験や技術、能力を問われない。従って高い処遇を望むことはできない、その点で正社員とは区別されているのだ」ということを容認してしまっているのです。差別を容認しているのです。
 私たちは、正社員の継続年数が7年ぐらいであるのに比べて、契約社員B は勤続年数も10年前後であり、職務内容には正社員との区別はないと主張していたのですが聞き入れられませんでした。退職金は、「継続的な勤務等に対する功労報酬」も含まれています。原告たちが10年前後の勤続年数を有していることを認めているにもかかわらず、「継続的な勤務等に対する功労報償すら支給されないのは不合理である」という判断をせずに、「不合理であるとは言えない」という判決を出したのでした。「労働契約法20条」という法律は、過去の最高裁判決で「均衡の取れた処遇を求める規定」としていて、仕事の違いがあったとすれば、違いに応じた処遇を求める規定であると最高裁自身が言っているのに、メトロコマース裁判では、双方に一定の相違があるので、退職金は支給しなくてもよいと判断するわけです。一定の相違があるなら退職金にも一定の相違を認めてもいいと思うのですが、ゼロでよいとしているのです。売店業務を大変過小評価しています。
 メトロコマースの売店に勤務する正社員は非常に特殊で、組織編成の中でやむを得ず売店業務をしている人たちを正社員にせざるを得なかったという経緯があって、正社員にしたからには賃金も切り下げられない。本当は売店業務は賃金が低くてもいいのだけれども、組織編成の中で正社員にしてしまったばかりに切り下げられなかった。けれども編成後に売店業務に従事する労働者は非正規で、契約社員Bとして雇った時には賃金を低くして差を設けても問題はないという考えだったのです。
 地下鉄売店の勤務は、始発からはじまる早番と、深夜に終了する遅番を一週ごとに交替し、業務中は立ちっぱなしで、トイレも我慢という過酷なもので、急いでいる乗客に対して素早く計算する必要もあり、商品の発注も在庫が残らないように先を見通して行わなければなりません。体力は元より、高度な判断力やコミュニケーション能力も求められますが、賃金は月手取り13万円~15万円にしかなりません。
 最高裁は、企業側の言い分に沿って、このような仕事は正規職員が担うものではなく、女性の非正規職員充分であって、「女性だから、家計補助的な賃金水準でいい」と、地下鉄売店業務を低く見ていることがわかります。
 反対意見が1名から出されましたが、これは労働事件の最高裁判決では珍しいのです。高裁で認めた4分の1ぐらいは認めてもいいのではないかというのですが、その理由は労働の実態を見るべきで、勤続年数は契約社員の方が長いし、功労賞的な部分を認めてもいいのではないかという意見でした。それが唯一の救いかなと思っています。
 最高裁では退職金についてはひどい判決でしたが、住宅手当とか報償とか、残業代とか認められた部分もあるので、全く負けたわけではないと思っています。
 同じ日に大阪で、賞与に関する判決が出ましたが、それもほぼ同じ理由で負けたのでした。■データからわかること  内閣府の男女共同参画局が今年の4月28日に発表した、コロナ禍で女性が置かれている問題を調査結果に基づいてグラフ化したものから読み解きます。  男女別・雇用形態の割合雇用形態の割合を男女別に見ると、非正規雇用者は女性の方が圧倒的に多いことがわかります。特に卸売・小売35%、宿泊・飲食54%、生活・娯楽40%と女性の割合が多いことが分かります。

雇用者数の推移(雇用形態別)

 2020年3月以降、女性も男性も雇用者がゼロ以下になっています。特に飲食関連では男女ともにマイナスなのですが、男性と比べると女性のマイナス度は倍以上になっています。そこで働く女性のほとんどは非正規雇用ということで、職を失い、非常に大きな打撃をうけていることを示しています。

増加する女性の自殺

 女性の自殺者数が増えていることはニュースで取り上げられていますが、昨年10月の1ヵ月を見てみますと、男性も女性も自殺が増えているのですが、特に女性が423人と多くなっています。無職者の女性が290人、内訳としては主婦、年金受給者が多くなっていますが、これは今までになかったことです。主婦が家の中の閉鎖的空間で、DVを受けたり、経済的な問題や育児の悩みなどさまざまなことが自殺の原因となっています。学生、特に女子高
校生の自殺も増えています。コロナの影響でこうした問題が深刻化し、女性の自殺に影響を及ぼしている可能性があると指摘されています。
 コロナだからと言うよりは、その前から経済的にも家庭内でも虐げられていた存在が、コロナ禍で初めて顕在化したということだと思います。

■企業側の売店業務に対する考え方


 コンビニエンスストアが増え、駅売店の売り上げが落ちたが、地下鉄利用者のための顧客サービスをやめるわけにはいかないため、販売員を契約社員Bの採用によってカバーすることとしたこと、契約社員Bを、「特殊ないし長期間の職歴もなく、経験・技術・能力に際立つものも無いが、子育てなどが一段落つき、セカンドキャリアとしてフルタイムの仕事で一定の賃金を得たいという層 」と決めつけています。売店業務は経験・能力を求められるものですが、過小評価しているのです。
 こういった考え方が、最高裁にも受け継がれたわけですが、社会全体がそういう考え方をする中で、女性が苦しめられて自殺まで追い詰められていることがわかると思います。
 ただ、非正規労働者が裁判を闘うということ自体が困難なので、その中でも労働組合を結成して頑張って最高裁まで行ったということは素晴らしいことだと思います。
 労働者の運動とはちょっと違うかも知れないのですけれども、今、DVとか性犯罪に関して女性たちが声を上げて、だんだんそれが社会に浸透しつつありますね。バックラッシュも大きいのですけれど、世界に比べれば本当に遅れているのですけれど、少しずつ進歩してきていると思います。そういうことも考慮しながら引き続き頑張っていきたいと思います。


【原告の話から】──「女闘労倶楽部」を立ち上げる

 去年の10月23日の最高裁の判決後、12月25日に今まで 年間在籍していた全国一般東京東部労組を退会しました。その後「旧労働契約法20条裁判」の元原告として活動してきましたが、今年の3月8日に「女闘労倶楽部」という名の、労働組合とは違ってゆるい形の、労働倶楽部を4人で立ち上げ、ホームページも立ち上げました。

 

■【後呂(うしろ)良子さんの話】 差別は死ぬまでつづく


─非正規雇用者の退職後の生活

 去年の3月いっぱいで仲間が全員定年退職となりました。㈱メトロコマースは 歳が定年ですが、私たちは定年退職後も登録社員として働く権利を勝ち取っていたのです。でも私はコロナを理由に継続雇用ができませんでした。地裁で闘っていた時に、現役の頃契約社員として働いていた先輩に電話をしましたが、先輩は退職後トリプルで仕事をしていたことを知りました。歳をとると、なかなか同じ場所で8時間働かせてもらうことができないので、1日に3ヵ所で働いていたのです。11時過ぎに帰って来て、朝4時半には出て行くのです。それを聞いて私も定年退職をしたらそうなるのだなと思っていました。その時に先輩は、「結局自分はこうして、日本がここまで悪くなったことを見届けて死んでいくんだと思っている」と言ったのです。私は辛くて絶句しましたが、その時のことを今思い出して、結局その先輩の言ったことが、今の私の定年退職後のリアルになっているなと思うのです。
 現役時代、私は一生懸命働いても、一週間交替だったためにダブルワークはできなかったので、貯金ができませんでした。私は定年後には「ここで働こう」と、2ヵ所ぐらい決めていたのですが、コロナになってそこは募集をしませんでした。一応雇用保険はかけていました。でも65歳定年なので、65歳で雇用保険を貰いに行ったら、「65歳では1回の支給で終わりです」と言われたのです。しかも50日分しか出ないのです。私は半年ぐらい貰えるのかなと思っていたのですが、貰えたのはたった1回、21万円ぐらいだったのです。しかも雇用保険を貰うために、4月いっぱいは働いてはいけないことになっていました。4月に働けないとたちまち困るわけです。こんな制度っておかしいと思います。だから皆さんは内緒で働くわけです。私は守って働きませんでした。その間いろいろ勉強ができましたけれど、やっぱりこの制度はおかしいと思います。調べたところ、64歳で定年退職した場合は120日分貰えるのです。そういうことも知らなかったのですが、会社ではそういうことも教えてくれなかった。だから後輩には教えているのですが、そういう雇用保険の仕組みもおかしい。48年前に東京に出てきましたが無収入になったのは初めてです。
 コロナのために10万円が支給されましたけれど、それは家賃の支払いと税金にも足りませんでした。
 定年退職して分かったことは、今まで差別されてきた弊害が退職後の生活にばっと振りかかってきた感じです。そして死ぬまで続くわけです。 コロナで自粛したくても働かなければ家賃も払えないので、働かざるを得ないのです。死ぬまで働かなければならないのです。働くことはいいのです。でも、休むことなく働いていかなければならないことが非正規の苦しいところだなと思います。それが非正規労働者の定年退職後のリアルなのです。

■ みんなの力で制度を変えたい!

 それを、今、非正規で働いている人たちに発信しています。今、働けている内にみんなで声を上げて制度を変えていかないと、定年退職してから気付いても遅いのです。そのために、非正規の公務員の方や、ホームヘルパーの人たちとも繋がりができましたが、お話を聞いてみると本当にひどいです。賃金が安いのです。これを解決していくためには、みんなで繋がって、大きな力にしていかないと制度は変えられないと思います。
 私たち、働いて税金も払っているのに、どうして私たちの所に税金が分配されないの? どうして余計なところにたくさんの税金が使われているのか、おかしいじゃないですか。
 企業もそうです。正社員だって賃金は少ないです。でも内部留保はどんどん蓄えられている。もう少し労働者に賃金を回せるような社会にしていかなければ、特に女性たちは一生懸命働いているのに報われない。これはおかしいと私は思います。今日はコロナで中止になるかと思ったのですが、小人数でも会を開いていただいて嬉しいです。私たちのリアルな状況を皆さんに知っていただいて一人でも多くの方と繋がって声を上げていきたいと思います。そうしなければ社会は変わっていきませんから。

【瀬沼京子さんの話】「仕事を選ぶ権利」は働く喜びに繋がるのに…

 私は今働けていないのです。実は去年の11月に乳がんが見つかって、治療をしているのですが、幸いなことに副作用もあまりなく、今は元気でいます。
 私は定年退職後、1年半ほど、メトロコマースで登録社員として働いて、その後はお弁当屋さんで週3日のパートタイムに行っていたのですが、今は人手が足りない上に慣れた人が必要ということで、休職扱いにして貰っています。
 私はずっと独身で、デザイナーではないけれど、デザイン関係の会社で働いていて給料が良かったのです。その当時は誰もが正社員でしたから、厚生年金も掛けていました。男性に比べると年金額は低いとは思うのですが、それでも月5万円ぐらい働いていれば何とか暮らせるという状況です。メトロコマースの時代は貯金はできませんでしたが、親と同居していましたから、親の年金も合わせながら、何とか暮らせていけたのです。
 昔は夢があって、職業も自由に選べていました。今みたいに、「非正規はこういう仕事しかできないから、賃金が低くて当たり前だ」など、なんだかひどい世の中になったなと思うのです。以前は本当に仕事が楽しく、自分の責任に於いていろいろなことをやらせてもらって、それが給料に反映していたので、それが嬉しくてどんどん仕事も頑張れたのでした。仕事を選ぶというのは、やはり自分の生きがいとまでは行かなくても、好きなことで金が稼げるというのは本当に幸せなことだと思います。それは尊厳というか、犯すことのできないことだと思うのです。今日、会社の申し入れ書の、セカンドキャリアというところを見て、改めてメラメラと怒りが湧いてきました。
 売店で働いている人は、いろいろな経験をして来た人たちで、優秀な人が多くて、それが生かされていると思うのです。駅売店業務はとっさに判断しなければならない人を相手の仕事であると同時に、お金を扱う仕事なのです。クレームをつけてくるお客さんに、「ちょっと待ってください。会社の人間を呼びます」とは言えないのです。私はお金を払わずに品物を持って行ってしまう人にも対応しました。そういうことだってある程度、度胸がないとできないと思うのです。非正規というだけで決めつけられるものではないのです。今は本当にひどくなる一方だなと思います。働く喜びって基本的人権で保障されているのに、それすら守られていない。我々が声を上げていかないと変えられないと思います。変えられなければウソだと思うのです。

 

【討論から】


■労働契約法の効果について

青龍 一応労働契約法の条文に違反すると、違反した部分は無効になって、労働基準法よりは弱いですけれど、損害賠償という形での請求権はあります。罰則がないので強制力はありませんが、裁判で労働契約法違反と認められれば、会社は賠償金を払わなければなりません。今はそれが「パートタイム・有期雇用労働法」という法律に変わりましたが…。今や労働契約法や労働基準法すら適応されない働き方が横行しているのです。後呂さん、そのことをお話してください。

後呂  私は仕事がなくて、とにかく働かなければならないので、午前中は家から歩いて行けるところにある高層マンションの清掃をしています。それだけでは家賃にしかならないので不動産のポスティングもやっています。これは請負で雇用関係ではないのです。だから簡単にクビを切られます。お客さんから苦情が来るとクビ、5000枚のビラを撒いても効果がないとクビにできるのです。実質的には雇用関係ではないかと思うのですが、請負であって雇用ではないのです。
 この仕事は、坂が多くて上り下りが大変な上、今ポストにはいろいろな形があって、とんでもないところにポストがあることもあります。 分ぐらいかけてある家に行くと「ポスティングお断り」と書いてあったり、あるいは「ここには撒かないでください」というところが100件ぐらいあります。それをまず、仕事をもらう前にチェックして覚えます。あるいは撒いてはいけない区域というものもあって、覚えるのが大変なのです。マンションやアパートは100件ぐらい簡単に撒けるのですが、戸建ての契約なので撒くことができません。高円寺の駅の周りなどは戸建ては200件しかないので骨折り損のくたびれ儲けで、1時間に300円ぐらいにしかならないのです。今では工夫をして、時給1000円ぐらいにはなるようになっています。けれども階段の多い家が何軒もあって、階段を登ったり降りたりが続くと疲れ、集中力がなくなってくるので、踏み外しそうになるのです。そういうことが毎回もあるのです。怪我をしたら補償はなく、仕事ができなくなって生活できなくなるわけですから、この仕事は怪我をする前に辞めなければと思っています。
 今、そういう人たちが結構いますね。私たちも非正規でひどかったけれども、もっとひどいなと思うのです。雇用関係が保障されていないから怪我をしても補償されない。労働契約は結んでいないけれど、実質的には支配関係に置かれている働き方で、こういう働き方が広がって行くのは良くないと思います。仕事がない時には不安に駆られて、そういう仕事でも飛びついてしまいます。私は若い頃に貯めていた貯金が少しだけあるので、次の仕事まで2週間も空くような仕事でも、かろうじて暮らせていけますが、貯蓄がなければ生活保護だと思います。でも生活保護は、家族に知られるのは嫌だし、迷惑をかけたくないので受給したくないのです。それでも、歳をとって体が動かなくなったら生活保護を受けなければいけないと思っています。生活保護への考え方も変わりました。そういう制度があるなら、働けなくなったら受けるべきかなと思うようになりました。そのために税金も払ってきているのだから。
 でも、新聞を読んでもテレビを見ても腹が立つことばかりで…、なんなのって感じです。そうは言っても10年前に比べたら声を上げる人が増えてきていると思いますが…。
 今、働く女性の2人に1人は非正規。人件費を削減するために、会社が正社員を雇わなくなっているからでしょう。企業って利益だけなのかな? 資本主義はもう終わりだと言われているのはそのためなのかな。自然を壊し、ここまでコロナを広げたのもそういうことですよね。

■女性差別撤廃条約「選択議定書」について

青龍
 日本は批准していません。そのために国連に個人通報をすることができないのですよね。メトロコマースの事件でも、 もし選択議定書が批准されていれば、国連に直接訴えて日本政府に対して勧告を出してもらうことが可能なのではないかと思います。そういうことを考えると選択議定書の批准は必要だと思います。

参加者発言

参加者 身近なところで非正規労働者の苦しい話を聞いていますが、今の自公政権では解決しないのではないかと思います。 私も親の介護と、兄の精神疾患の世話で途中で仕事を辞めましたが、家族のことは社会の制度があったとしても、結局誰かが担わなければならない。特に精神疾患への社会制度は確立できていないことを、身を以て体験しました。今、コロナ禍で、シングルマザーが生きるか死ぬかという所に追い込まれています。オリンピックなどより人の命を優先した政治をしなければいけない。
 運動をすると言われましたが、さまざまなことをバラバラに取り組むのではなく、一揆みたいに一度にやらなければ、今の政治は部分的に運動をしても動かないのではないかと思うのです。今度、国政選挙がありますが、国政を変えるには選挙しかないように思います。私たちの小さな声をいかに大きくして行くかが国民に課せられた課題ではないかと思います 。

参加者 実は私たちは杉並区で「貧困をなくそう杉並」という会を立ち上げて「一人で悩まないで!」というチラシを配って活動しています。 
 杉並区は豊かな区と思われているのですが、実は目に見えない貧困層が存在しているのです。そこで、区議さんなどにも関わってもらって、月に2回、生活保護の手続きや生活相談などを受けつけたり、ボランティアの人が食糧などを持っていったりして、すごく喜ばれています。 生活保護を受けようと思った時に家族に扶養照会が行くのが嫌だという声が多かったのですが、「この人からの仕送りは無理です」と、ちゃんと説明できたら照会は出さないことになりました。
 大きな問題というより、個人個人の問題に対処して、小さい動きが繋がっていくことをやっていかないと、今の政府には何も期待できませんから…。時間はかかるけれどもこういう繋がりはすごく大事だと思っています。この会には代表も会長もいません。区議会議員や都議会議員、元ジャーナリストなどが関わってくれて、それにボランティアの方がお弁当などを作ったりという会で、何の規則もなく、いつでも辞められるようになっています。そうしないとこういう会は続かないのです。

参加者 私は正社員だったのですが、女性差別と闘って来た原告の一人です。その闘いから21年、私たちの頃は正社員が普通だったのですが、それでも年金も生活保護レベルのものでしかありませんので、働いていた時の貯蓄を切り崩して生活しています。それが底をついたら生活保護を受けようと考えています。私たちの頃も裁判をして大変でした。それでも昔は労働組合がちゃんとしていて、臨時雇用を正社員化する労働運動などもしていました。
 それが1985年に「労働者派遣法」が成立し、それ以来どんどん悪くなっていったと思っています。そういうものをくい止めて「生きていて良かったな、働くことって素晴らしい」って思えるような社会になっていかないと間違いだと思うのです。それにはどうすることが必要なのかなと考えると、やはり小さな力を寄せ集めて、繋がりながら声を上げるということが大事だと思いながらも、それは簡単ではないと感じています。私たちが闘った時よりも、もっとものすごい勢いで大変になっているし、頑張る力が求められている過酷さを感じます。何ができるかをみんなで考えて力を合わせていきたいと思います。

青龍 女性はずっと闘ってきたのですよね。今では信じられないけれど、35歳定年とか、結婚退職制とか、日本国憲法ができてからも明らかに女性差別とたたかってきているのです。運動をやって来て、徐々に徐々に前進して来た筈なのですよね。その延長線上に私たちの運動があるのだということを改めて感じているのですが、前進してきたとはいえ、未だに女性差別が残っていることを改めて実感できました。これから声を上げてくる女性が増えてくると思いますので、やっていくしかないのだなと改めて思います。