女性「9条の会」ニュース28号 2014年2月号
 
1面

 安倍内閣の憲法改正を許さない    北沢洋子(国際関係評論家)


 私たちは民主党政権の失政が続く中で、油断していたのではなかっただろうか?
その結果、衆参両院で自民党に過半数の議席を許し、再度、安倍晋三を首相の座に就かせてしまった。第一次安倍内閣は2006年から一年足らずしかもたず、自滅したではないか。
 あの時の惨めな終わり様を忘れたかのように、安倍首相は、成長戦略と称して、恥も外聞も捨てて、大企業、金持ち優先の政策に走り、秘密保護法を制定し、さらに、集団的自衛権を持ち出してきた。こうして、彼は、戦後日本が築き、守ってきた平和と民主主義を捨て去ろうとしている。
 そのなかの一つである集団的自衛権について考えてみよう。これまで自衛隊は、憲法九条に違反して海外派遣をしてきた。この場合、カンボジアのように、とにもかくにも停戦協定が成立していることが条件であった。
 90年の湾岸戦争には、日本は米国にODA予算から百億ドルを拠出した。にもかかわらず日本の貢献は全く無視された。そのトラウマから、イラク戦争が始まると、米国からのあからさまの圧力もあり、「イラク特措法」を制定した。
 しかし、戦火がやまないイラクでは、自衛隊は土木工事すら出来ず、オランダ隊に護衛してもらった。このことはオランダ議会でも問題になった。
危うい日本、その中で、一つひとつ抵抗が始まっています
   (女性「九条の会」呼びかけ人)


2面 

危うい日本、その中で、一つひとつ抵抗が始まっています

■人間の鎖に3000人

 国会開会の24日、国会前は「秘密保護法廃案」を求める人でいっぱいになりました。3000人が手をつなぎ、「人間の鎖」を作り国会を囲みました。
 昨秋以降、安倍内閣は、「秘密保護法・国家安全保障会議設置法」制定、防衛大綱見直し、沖縄・普天間基地の辺野古移転強行決定,靖国神社公式参拝など、恐ろしいスピードで「暴走」を進めてきました。 そのほかにも教育の国家管理強化、生活保護など社会保障切り下げ、原発再稼働、そして今国会では集団的自衛権の解釈変更など、本当に日本は崖っぷちではないか、戦争の足音がひしひしと聞こえる恐ろしさを痛感しておられる方が多いと思います。が、市民の地道な抵抗は続いています。心配なことは、こうした運動があまり報道されないことです。テレビしか見ない方は、この「人間の鎖」のことなど全く分からなかったでしょう。翌日の新聞は多くのところがかなり大きく報道していましたが、全く報道しない新聞もありました。
 1月22日、参議院会館の講堂は
200人近い女性でいっぱいでした。
「戦争反対!女性大集合」。急きょ決まった会で、さして宣伝もしていないのに、よく人が集まったと思います。落合恵子さんの司会で、18人の方が熱く語りました。
 1月25日には、「国連勧告の実現を!すべての人に尊厳と人権を」という集会が代々木公園野外ステージでありました。この国の人権状態の悪さ、国連からさまざまな勧告を受けているのに実行しない。それでいて安倍晋三氏は日本国の人権尊重ぶりを自賛するというおかしさです。「慰安婦」問題、外国人労働者差別問題、朝鮮人学校差別・・・訴えたグループは小さなグループが多いのですが、寒さを吹き飛ばすように熱く語り、デモもしました。ほかにもこんな活動はいろいろなところで行われていると思います。これらの集会は〝もちろん〟マスコミなどでは報道されません。でも、今の日本の状態はとても心配、何とかしたいという方はとても多いことが分かり、元気をもらえます。

 ■改戦争反対の集会に現れた「阿部応援団}!

 「戦争反対、女性大集合」でのことです。18人のトークが終わり、会場発言に移った時、後ろの方の席に座っていた女性が発言を求め、「通りかかったら戦争反対の集いをしていたので、心に響き参加しました」。「貧困が戦争の引き金ということに賛成です。貧困撲滅を地道にやらなければなりません」。拍手がわきます。すると「私は安倍晋三応援団です」。エーと皆が驚く中「私は長谷川三千子と申します」。満場沈黙。長谷川三千子さん。著名な右の論客で安倍晋三氏の「お友達」として先ごろ、NHK経営委員になったばかりです!
 安倍晋三さんがもっと若いころから「見込んでいた」と言い、「私は単なる9条改憲論者ではありません。世界で唯一日本が9条を持っているのはユニークでいいと思う。しかし、日本だけ平和ではダメ。今、中国は空母をどんどん作り戦争準備している。日本の女性は中国の女性に働きかけ中国政府に平和を説いてもらう。日本の女性も日本政府に平和を説く。これが本当の平和主義」。これ、安倍さんの積極的平和主義?
 会場にいた元NHK経営委員の小林緑さんが「安倍さんのお友達にならず、公正な立場で経営委員をやってほしい」と言い、同じく会場にいた田中美津さんが「確かに同じ考えのものばかりで話しても発展がない。応援団の方と一緒に今度安倍解剖講座でもやりましょうか」とユーモアたっぷりに締めたのですが。この会場に来ていた方はさまざま運動をしている方が多く、長谷川三千子さんのこともよく知っている人々だったのですが、普通の会で、この種の「平和」論、安倍応援論を言われたらどうなるかしらと思いました。それに、「通りがかったから急きょ参加した」ということですが、参議院会館の講堂は奥まった行きどまりのところ、用もない人が通りかかるところではなく、「何か、変」ですね。
 なお、長谷川さんたちが入り、構成が大いに変わったNHK経営委員会が選んだNHKの新会長・籾井勝人氏は就任会見で、「領土問題について日本の立場を主張するのは当然」「秘密保護法は通ってしまったので是非を言っても仕方がない」「慰安婦は戦時どこの国にもいて日本だけが強制連行したように言われるのはおかしい」など政治的中立を疑わせる様な発言を繰り返しました。(関 千枝子記)
   
 

沖縄のいま 現地からの報告

沖縄にお住まいのお二人から現状を報告していただきました。

子や孫の将来を真剣に考えた選挙     上原 智子

  今月19日、沖縄の名護市長選で稲嶺進氏が再選を果たした。歴史的な勝利だった。名護市民ではない私たちも固唾をのんで結果を見守ったが、夜8時の投票時間終了と同時に当確の情報が流れたとき、身体の底からわき上がる喜びと深い安堵感で満たされた。
 ご存じのとおり、名護市は、1996年に日米両政府が普天間飛行場の返還を合意し、移設先を名護市東海岸の辺野古と決めたことによって、20年近くも市民を二分して翻弄されてきた。今回の市長選は、辺野古移設「推進」と「反対」の対立軸が明確となった初めての選挙であった。相手候補は、仲井真沖縄県知事や政府・自民党の全面的な支援を受けて、政府とともに移設を推進し、米軍再編交付金や経済振興策で地域の活性化を図ることを堂々と主張した。
 争点が明確となり名護市民は敏感に反応した。告示後の世論調査では、男女を問わず、移設是非を争点と考える人が過半数を超えた。名護市民の知人は、こんなことを言っていた。
「交差点で親子が稲嶺さんを応援する手作りの横断幕のようなものを持って立っていたり、稲嶺さんに手を振るために高齢の人が家から走って出てきたり、すごいのよ。本当に頭が下がる。」と。私も、カンパを手に稲嶺氏の後援会事務所を訪れる市民を何度も目にした。多くの市民が子や孫の未来を真剣に考え、自分たちの大
事な選挙だと考えていた。
 昨年末、仲井真知事は、埋立承認と引き替えに政府から多くの約束を引き出したとして、「良い正月が迎えられる」と満面の笑みを浮かべた。私たちは、名護市長選の勝利でようやく「良い正月」が迎えられた。安倍政権は、しかし、辺野古移設に向けてあらゆる手段を使ってくるだろう。厳しい道のりを覚悟している。
 さて、都知事選。日本の人口の一割を擁する都知事の役割(権限)と存在感の大きさはいうまでもない。横田基地を抱え、日本の安全保障問題とのかかわりも深い。残念ながら名護市長選から何か引き出して言えるだけの能力は持ち合わせないが、都民の良識によって、平和憲法をまもり生かしていく都知事が誕生することを心から願っている。  
    

県民はどんな裏切りにも崩れなかった    野村美佐子    
・ 沖縄県民は68年間、基地あるが故の事件事故で苦しんできました。米軍人、軍属による犯罪検挙数は復帰から09年までで5747件、強姦事件の検挙数は127件で、告訴しないケースも多く実数は更に多いのです。
 県民は先の沖縄戦で4人に1人が殺されました。70代以上の女性が子育てを終えた今になって、PTSDに苦しんでいることが問題になっています。「米兵に撃たれ倒れた妹を置き去りにした」「畑に米兵が来て自分は隠れたが、逃げ遅れた女性が米兵に強姦された。何もできなかった」などの光景が基地の爆音や少女暴行事件の報道などでフラッシュバックして自分を責めるのです。沖縄県にいると、戦争は過去のものではなく現実なのです。建設工事で地面を掘れば不発弾が出てくる、空にはファントムやオスプレイが日常的に飛び交っている。県民は長い間の基地の苦しみと、基地の利害で二分されていた悲劇を経て「これ以上基地負担は許さない」という総意を超党派で勝ち取り、昨年一月の建白書に結集したのです。しかし、安倍政権はアメリカと一緒に辺野古への新基地建設を強行に押し付けてきました。新しい基地を誘致するのか、拒否するのかが争点になった名護市長選は、まさに政府と県民の戦いでした。安倍政権は膨大な金と人を投入し、恫喝や振興策で名護市民を揺さぶりました。しかし、こうしたやり方に対する危機感や怒りが逆に大きくなり「こんなやり方は許せない」「石破幹事長も県知事もうそつきで信用できない」と公約を守り抜く勇気の人「稲嶺進さんの再選を」は必死の思いになりました。政府の圧力に屈せず、人間としての尊厳と民主主義を守り抜いた名護市長選の勝利は、いかなる圧力をかけようとも民主主義に反するやり方は成功しないことを示しました。沖縄県民の総意はどんな裏切りにも崩れず「新基地NO」の民意は安倍政権に打撃を与えることになるでしょう。

沖縄のこれからと私たち   ─私たちはどう支援していけるか  田場祥子

  沖縄県名護市長選で新基地建設反対の稲嶺進氏が再選されました。前回の選挙では対立候補とは1500票余の僅差でしたが、今回は4155票の差をつけての堂々たる当選でした。稲嶺市政は〝基地がなくても安定した市政〟を掲げ、政府からの交付金に頼らない市政を進めてきました。「ふるさと納税」制度を活用して名護市を応援する人もいます。「普天間基地の移転先は県外に」と公約した仲井真知事の年末ぎりぎりの裏切りに怒った名護市民の勝利です。この選挙に自民党が膨大な金額の官房機密費を注入するといううわさもありました。でも名護市民は札束には負けませんでした。
 思えば長い道のりでした。1995年9月、米軍海兵隊の兵士3人による少女暴行事件に端を発し、続く怒りの沖縄県民総決起大会、SACO合意(沖縄に関する特別行動委員会)による普天間基地の移転問題。市街地の真ん中に位置する米軍普天間基地は、県民の生命・財産を脅かしている世界一危険な基地と言われており、米国本土ではありえない立地です。その結果移転先と名指されたのが名護市東海岸にある辺野古でした。97年1月、辺野古では命を守る会が作られ、おじぃおばぁは、めぐみの海を守るために立ちあがります。
 その年の12月、名護市民投票で50%を超えた住民は海上ヘリ基地建設拒否。2004年、海上阻止行動開始、辺野古に全国から支援の人々が訪れました。新基地に対する建設拒否の行動は辺野古のテント村でいまも続けられています。(2014年1月31日現在・座り込み3575日)
 選挙直前の1月10日、新外交イニシアティブ(ND)主催の「普天間基地返還と辺野古移設を改めて考える」(稲嶺市長もパネラー)が開かれ、1000人収容の名護市民会館はあふれ1200人の参加者がありました。
 当選後、辺野古のテントへ電話を入れともに喜びました。「これからが辺野古も高江も正念場です。田場さん、また座り込みに来てくださいね」
辺野古に通い始めて今年は10年になります。   (VAWW RAC)


■女性「九条の会」呼びかけ人、世話人のエッセイ集をお手元に!

 2012年5月に発汗しましたエッセイ集「あした天気になあれ─原発・戦争のない社会へ祈りを込めて─」には、池田香代子、内海愛子、江尻美穂子、大原穣子、小山内美江子、北沢洋子、坂本福子(故)、羽田澄子、本尾良、湯川れい子、吉武輝子(故)、渡辺えり、井上美代、関千枝子の14人の方が書かれています。吉武輝子、坂本福子さんは、原稿が来てから間もなくお亡くなりになりました。女性「九条の会」への最後の言葉となりました。
 まだお読みになっていらっしゃらない方、お子さんやそのお連れ合い、お孫さんやお友達にプレゼントなさりたい方は、ぜひごれんらくください。
贈呈いたしますが、在庫がなくなり次第終了とさせていただきます。ただし、送料はいただきたいと思います。1冊〜4冊は80円、5佐津〜8冊は160円
一橋大学の渡辺治氏の「3,11語の日本のゆくえと憲法の生きる社会の展望」についての学習会記録も掲載しています。読んで得する1冊です。
ご注文は女性「九条の会」事務局まで。

■訃報
 
女性「九条の会」の呼びかけ人のお一人、小林カツ代さんが
一月二五日にお亡くなりになりました。
小林さんは女性「九条の会」が発足して間もなく発病され、私
どもは一日も早いご回復を願っておりましたので残念でなり
ません。
ご冥福をお祈りいたします。