女性「9条の会」ニュース24号 2013年1月号

学習会「米軍基地オキナワと日本国憲法」「自民党改憲案」9条について

 
  お話しする前泊博盛さん 千葉恵子さん憲法学集会会場風景

 

1~3

自民党憲法改正草案について その2 正念場を迎えた憲法九条

 「憲法改正」の危機が迫ってきました。
今、私たちは、自民党が提案している「改正」の内容をしっかり掴み、
周囲の人々に伝えて、「改正」を阻止する時を迎えています。
 ニュース二三号では、弁護士である千葉恵子さんを講師に行われた、「憲法改正草案」を知る学習会のうち、日本国憲法前文と天皇制が、「改正草案」ではどのように扱われているかを中心にご報告いたしましたが、この号では第二章を報告させていただきます。
 

日本国憲法の第二章は 戦争の放棄 ですが、草案では 安全保障 となっていて、「戦争放棄」の言葉は削られています。
 九条2項の(戦力の不保持・交戦権の否定)は削除され、草案では(国防軍)を創設しています。自衛軍ではなく国防軍をつくることを規定しているのです。    以下は九条2項に代わる草案の記述です。

 〈国防軍〉
九条の二 我が国の平和と独立ならびに国および国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第1項に規定する任務を遂行する活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に強調して行われる活動および公の秩序を維持し、又は国民の生命もしくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 第二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制および機密の保持に関する事項は法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公
務員がその職務の実施に伴う罪または国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は保障されなければならない。

 〈領土の保全等〉
第九条の三 国は主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海および領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
 では、問題はどこにあるのでしょうか。項目ごとに見ていきます。  草案2項では「国会の承認その他」となっていますから、承認がなくてもいいということで、国会による統制が充分に行き渡らない恐れがあります。
 草案3項では1項の目的及び国際社会の平和と安全を確保するための他国との共同活動を認めており、海外派兵や集団的自衛権が容認されます。また「公の秩序を維持し」となっていますので、国内における暴動や内乱がおきたときに、国防軍を使って事態を収束することも想定されていると考えられます。
 草案4項では、今問題になっている秘密保護法制の導入を考えてのことだと思います。
 草案5項では、軍事法廷の設置が設けられています。戦前の軍法会議は特別裁判所の典型と言われています。特別裁判所とは、特別の人間又は事件について裁判するために通常の裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関です。草案の軍事法廷は、通常の裁判所に対する上訴が認められているので、通常の裁判所の系列から独立してと言えないとも言えますが、戦争ができる体制づくりの一環と考えられ、秘密保護法制との関係もあり、問題があります。
 草案第九条の三では、「国民と協力して領土等を保全する」とあります。これを国民の側から見ると「協力しなさい」ということです。協力義務が認められれば徴兵制も認められる可能性もあり、憲法の平和主義とは真逆の方向です。
 第三章以下は次号に掲載します。
 
    
■リーフレット「 憲法はあなたを応援します」の反応

女性「九条の会」リーフレット『憲法はあなたを応援します』を教材として取り上げてくださった高校の先生から生徒さんたちの感想が寄せられました。感想は23通もありますが、どの生徒さんも、自分の問題として真剣に読んで、考えて書いてくれています。残念ながら紙面の関係で、ここではほんの一部を紹介させていただきます。

改めて憲法九条は変えてはいけないものだと思った。
 もし。九条が改正されてしまえば、日本は太平洋戦争のときのような強力な軍隊をもつ国になってしまう。
 さらに、九条の2項の「戦力の不保持」が変われば、原発の技術を悪用して、核兵器をつくることができるということもわかった。唯一の被爆国である日本が核を持つと言うことは絶対にあってはならないと思う。
 世界の平和を守るためには、九条を守っていかなければならない。
 現在の社会の状況と憲法の内容には、食い違いがあるということがわかった。女性に対する差別が根強く残っていて賃金においては、多額の差額が発生している。
 これからも憲法を守っていくべきだと痛感した。N・S君

 これを読んで、ただでさえ現代において問題となっている米兵が起こす事件や、オスプレイなどの兵器配備が、九条を変えることでもっとひどくなるということを初めて考えさせられた。
 また、三・一一の地震で、平和目的の核使用も問題視されているのに、核兵器が製造されるようになるかもしれないと思うと、恐ろしくなった。
 私の家庭は母子家庭で、収入が少ないために、自分や妹の進路や母の老後のことなど問題が山積みになっている。そして日本の母子家庭の多くが同じであると知り、日本政府にもう少し努力してほしいと思った。K・S君

3面

第三回 女性「九条の会」学習会 記録抜粋 米軍基地オキナワと日本国憲法
      講師 前泊博盛さん(沖縄国際大学教授)

 一、米軍基地と原発の共通点
〈安全神話と金〉
 日米安保と原発、この二つに共通しているのは安全神話だ。原発について国は「安全だ」と言って来た。「専門家が安全と言っているのだから安全なのだ」、そして「受け入れてくれたら道路や公民館をつくる。雇用が生まれる。交付金もたくさん出る」とお金によって封じ込めてきた。基地についても「米軍基地があるから日本は守られていて安全だ」と言っている。沖縄では地代を引き上げたり、周辺対策費を出したり、基地交付金を出したりということで、議論をお金で封じ込めてしまう。

〈馴れ合い〉
 電力会社と管理監督官庁、経産省、原子力保安院などが天下り人事をしていたことが、今回はじめて表に出てきた。町長に東京電力の社員がなった町もある。電力会社とメディアの馴れ合いも真実を封じ込めてきた。
 基地で言うと、米軍と自衛隊の共同訓練がある。米軍の専用施設の七四%が沖縄に集中している。日本全体の〇・六%の面積しかない沖縄に七四%も集中するのは過重な負担であると言っていたら、二〇〇六年以降は、沖縄の米軍専用施設を自衛隊が共同使用するようになった。そうすれば比率が落ちる、そういう数字のトリックを使い始めている。

〈受益と被害の分離─差別の構造〉
 福島は東北電力の管内であり、東北電力も原発を持っている。東京電力が福島に原発を置くのは、電力を東京が使うためだ。恩恵を受ける人は安全な場所にいて、原発が事故を起こして放射能を浴びるのは福島の人たちだ。
 昔から日本には、中央に住む人たちは、地方に住む人たちよりも偉いという誤った認識があるように思う。国民の中に階層ができている。それによって首都に住む人たちのために、福島の人たちは犠牲にされたのではないだろうか。
 基地問題も同じ構造だと思う。基地があることによって基地のある地域は最も危険な地域になる。沖縄の米軍基地は日本を守るためと言われているけれども、戦争になったときに最初に叩かれるのは基地なのだ。日本の中に、原発があることによって利益を受けている人たちがいる。基地があることで「守られている」と思って安心している人がいる。その中で、足を踏まれ続けている。踏み台にされている地域がある。
これが、日本の内なる病だと思う。
 日本全体が問題にしている安保は「有事」の安保であり、戦争になったときにどうするか、北朝鮮がミサイルを打ってきたときにどうするのか、中国が攻めてきたら、冷戦時代にはソ連が攻めてきたらどうするかという、攻めてくることを前提にして安保を語っている。
 けれども、沖縄で議論をしているのは、「平時」の安全保障なのだ。
「平時」において、軍隊が駐留していることによる危険性を、いくら言っても、わかって貰えない

〈情報の隠蔽体質〉
 メルトダウン情報が隠蔽をされる。汚染情報が遅れる。そのために避難指示が遅れてしまった。年が明けてから、菅さんが「実はあのときメルトダウンだった」と言った。直後に言ってくれなければ避難はできない。そのために被爆をした人たちが増えた。
 メディアでは、事故後一週間ぐらいは、メルトダウンという言葉が多く使われていた。ところが四月になるとピタッと消える。
 炉心が溶けて釜の中に落ちる、釜が溶けて釜の外に出てしまうこ犯だと言うが、あれは無害通航であり、浮上して旗を立てているときは通っていいと国際法上で認められている。むしろアメリカは、国際法上も地位協定上も守っていないのである。それらについて機密文書には、「浮上して旗を揚げて入って来いとお願いしているけれども、いまだ実現していない」と書いてある。

三、オスプレイ配置問題
 オスプレイが配備をされた。一九九〇年の初飛行が終わった段階で、普天間配備を、アメリカは表明していた。
 私は二十二年前にこの記事を書いた覚えがある。しかし、日本政府は否定していた。そして配備を表明したのは今年、「配備されるかもしれない」と言ったのは去年。二十二年間、日本政府は国民を騙してきたことになる。日本政府がそれをひた隠しにしたのは、「国民に言うと大変なハレーションが起こるから、発表を抑えたのだ」ということが、ウキリークスによって明らかになった。こういうことを平気でやるのだ。
 「オートローティション機能がこの飛行機には付いているから安全だ。海兵隊の中でも事故率が低いのだ」と森本前防衛大臣は言った。大臣になる前、朝まで生テレビで、彼は「オスプレイという未亡人増産機というものがある。それが普天間に来るので危ない。だから辺野古に基地をつくる必要がある」と言っていた。それを指摘されると、「あのときよりは事故率が低くなっている」と言い訳をしている。
 こうしてオスプレイは配備され、沖縄中を飛び回っている。沖縄にはヘリパットが六九箇所ある。六九箇所で離発着をくり返す。
 「市街地上空は極力飛ばない」との約束があるが、普天間基地はまさに市街地のど真ん中にあるので、飛び立つときは必ず市街地を飛ぶ。機体が不安定になりやすいとされる転換モードで飛ぶ。約束では、基地の中で飛んで、水平飛行になってから外に出て行くことになっているが、短い飛行場の中でそんなことはできるわけはない。案の定、那覇市内、浦添市上空を含めて転換モードで普通に飛び回っている。
 日米合意というものは、破られるためにあるのだ。

既成事実に弱い日本人
 沖縄返還協定に際し、「米国が支払うことになっていた、地権者に対する土地形状回復費四〇〇万ドルを、実際には日本が肩代わりする」という密約を暴露した西山太吉さんを覚えているだろうか。彼は国の重要な問題を告発したにもかかわらず、「報道を入手するために情を通じた」という女性スキャンダルにすり替えられ、記者生命を失ってしまった。
 今西山さんは裁判をしていて、講演も各地で行っている。彼は安保問題について触れ、オスプレイの話が出たときに、「オスプレイというのは、実は突破されて既成事実になったら日本はそれを受け入れるんだよ。反対運動は今だけだ」そして、「アメリカはそれを知っているから強行してくる。六〇年安保の運動をしていた学生たちは、五年後一〇年後にはサラリーマンになって、安保のことなど何の関心もない。だから七〇年安保を強行しなさいと言われて、佐藤政権は強行した。日本人という国民は既成事実化すればそれを受け入れるとアメリカは読んだのだ。オスプレイも全く同じ手法だ」と彼は言った。
 強行して既成事実をつくれば、日本人は掌握できる。これがCIA情報なのだ。ジャパンハンドラーという言葉がある。アメリカには五〇人ほど日本担当の人たちがいて、彼らが日本を掌握している。
 日本政策は大成功だ。アメリカに対してノーと言えないのだから。

四、基地内で激増するレイプ事件
 沖縄でまたレイプ事件が起きた。この事件では犯人が捕まったが、基地内に入ってしまったり、移動してしまうと逮捕は難しくなる。
米兵は時期ごとに動いていく。米軍は兵士の負担軽減のためと言うが、実は犯罪の温床にもなりかねないのだ。犯人が移動してしまうと捜査は及ばなくなってしまうからだ。地位協定の問題として裁判権の問題もあるが、もう一つは起訴率の低さがある。日本全体では日本人が犯罪を犯した場合は、四二%ぐらいの起訴率だが、米兵に関しては一一%。高くても一七%でしかない。
 米軍基地の中でも性犯罪が深刻になってきている。二〇一一年に被害を受けたと届けた兵士が三一九二人、米軍基地の中でレイプ事件がこれだけ多発しているのに、フェンスの外側で起きないはずがない。実は韓国では、以前は年に三件ぐらいだったレイプ事件が、昨年、一昨年は一〇件というように急激に増えた。調べた結果、イラクやアフガンで兵士が不足してしまい、入隊条件を緩和して前科者を入れるようになったことに原因があった。韓国で起こっている問題がしっかり報道されていれば、沖縄でのレイプ事件の可能性が高まっていることを警告することができたのに、その情報は伝わらなかった。米兵の質が悪くなっていることをしっかりと認識しておかなければいけない。
 この四〇年間に、沖縄で米兵による事件が二七〇〇件も起きている。その内の五六〇件は殺人、強盗、放火、レイプといった凶悪事件だ。五六〇件もくり返されているのに、それでも基地が必要だという人の気持ちはわからない。これに歯止めを掛けるためにも、「犯罪者に対して裁く権利をしっかり確保しろ」というのが、地位協定の改定のポイントだろう。

五、海兵隊八千人をグアムに移転するというが…
 普天間と沖縄の負担軽減のために、日米合意では「八千人の海兵隊員をグアムに移転させる」という。アメリカは最初「二万四千人が沖縄には駐留している。その中から八千人を減らす」と言った。日本政府は「沖縄県の調べによると、沖縄には一万八千人の海兵隊員がいる」と国会で答弁した。しかし実際は一万二千五百人だったことがわかった。一万二千五百人しかいないのに「八千人を減らして一万人にする」という合意を結んでいる。そのことがウキリークスに出ている。なぜそのように言うのか調べたら、その経費を日本が負担をすることになっていた。日本側はそれを知っていながら、「そういうことにしよう」ということで合意したとウキリークスに書いてある。
 しかも兵士が家族で移り住むために、一戸あたり六千万円の家をつくる計算になっている。グアムで六千万円の家というと、ほとんどの日本人には手のでない、信じられないほどの豪邸である。
 キャンプシュアブの指令官にたまたま会う機会があったので、「実際に米軍兵士は何人いるのですか」と聞くと、「今は五千人です」と言う。「イラクやアフガンに行っているので沖縄にはそれしかいませんよ」と。だから米兵による犯罪は、今のところ減っているのだが、五千人しかいないのに、どうして八千人も減らすことができるのかという話である。

【質問に答えて】
■これからは多国間安保
 今までは、経済大国であるアメリカと繋がっていれば、日本経済は何とかなっていたけれども、これからは違ってくる。
 今、中国と日本の貿易額はアメリカ貿易額の倍であり、アメリカと中国の貿易額は日本と中国の倍ある。つまり、日本はアメリカとも、中国とも良好な関係を持たなければ経済が成り立たない。
 今日本に必要なのは、日米安保ではなく、多国間安保なのである。
■沖縄に対してできること
 本土に住む人間が、沖縄に対してできることは、「国内にある基地の問題」にしっかり目を向け、「憲法九条を守る運動」を、それぞれの地域で続けていくことではないかと思う。

 

 

『憲法二十四条』の産みの親ベアテ・シロタ・ゴードンさんの死を悼む

 

                 

「遺言」は、「憲法九条と二十四条を守ってほしい」

 ベアテ・シロタ・ゴードンさんが昨年(二〇一二年)一二月三〇日に亡くなりました。八十九歳でした。日本国憲法の草案つくりに携わり、男女平等に関する条項を起案したのはあまりに有名です。現行憲法の二十四条「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻および、家族に関するその他の事項に関しては  法律は、個人の尊厳と両性の平等に立脚して、制定されなければならない」はベアテさんの起案によるものです。この規定は当時の世界の憲法の中でも最先端と言われるもので、アメリカ合衆国憲法にもこうした規定がありません。いかにベアテさんの草案が画期的であるかを物語るものです。
 ベアテさんの最後の言葉は、「日本国憲法の平和条項と女性の権利(九条と二十四条)を守ってほしい」だったそうです。そして、故人への献花などはいらない。そのお金を「九条の会」に寄付してほしい、と言われたそうです。「日本国憲法は世界のモデル」とかねて語っていたベアテさん、私たちは、この「ベアテさんの遺言」をしっかり守りましょう。ベアテさんの日本女性への贈り物を生かす生き方をし、憲法を固く守りましょう。
 女性「九条の会」では、五月十日(金)6時より、津田ホールにて、ベアテさんの志を受け継ぐ会を開催いたします。

〈ベアテさんのプロフィール〉
 ベアテさんは一九二三年ウィーンで著名なピアニストのレオ・シロタ氏の一人娘として誕生した。父も母もユダヤ人で、ユダヤ人排斥のため、キエフ(現在ウクライナ)に居づらくなりウィーンに移った。ヨーロッパの経済も不安定で、ドイツで反ユダヤ主義が台頭したため、一家は演奏旅行に出、ハルピンやウラジオストックまで足を延ばした。ハルピンでの公演を聞いた山田耕筰は感銘を受け日本公演を依頼。訪日中、山田の頼みで東京音楽学校(現・東京芸術大学)教授に赴任した。この時、ベアテさんは五歳だった。半年ほど滞在の予定が、長期滞在となる。乃木坂のシロタ家は文化人の集うサロンとなったが、ベアテさんは幼少から語学の才能を発揮、少女期、すでに、ドイツ語、日本語、ロシア語、英語、フランス語を使えた。また、お手伝いの小柴美代さんを通じ、日本に親しみ、彼女から聞いた日本女性の地位の低さは後に憲法二十四条を書く下地となった。
 通学していた東京大森ドイツ学園がナチス派遣の教師が増えてきたため、アメリカンスクールに転校、一九三九年卒業。ソルボンヌ大学進学を希望していたが、フランスがドイツと開戦直前だったため、アメリカ カリフォルニア州のオークランドのミルズカレッジに入学。同校の学長は進歩的なフェミニスト女性で、影響を受けたベアテさんはフェミニストとしての自覚をしっかり持った。
 一九四一年日米開戦、日本に残っている両親との連絡も途絶え、仕送りもなくなったが、ベアテさんは語学力を生かし、サンフランシスコのCBSリスニングポストで、日本からの短波放送を英語に翻訳するアルバイトをしてしのぐ。日系二世でも聞き取れない用語も聞き取るベアテさんの能力は非常な信頼を得、給料も上がった。
 最優秀成績でミルズカレッジを卒業、叔母の住むニューヨークに転居、タイム誌のリサーチャーとして働いた。
 日本敗戦。両親のことを心配、日本に帰る道を探し、連合軍総司令部〈GHQ〉の調査専門官の職を得た。当時アメリカに日本語を話せる白人は六〇人ほどしかおらず、抜群の日本語能力を含め六カ国語の言語能力、リサーチャーとしての経歴を持つベアテさんの能力が買われたためだった。軽井沢にいる両親と再会、栄養失調の両親を東京に連れ戻す一方、調査専門官として仕事に励む。
 敗戦後半年の一九四六年、日本政府は、松本烝治国務相らがひそかに憲法改正案を進めてきたが、二月一日、この「案」を毎日新聞がスクープし、全文を掲載した。GHQは、これが明治憲法を多少修正した内容だったことに激怒し、独自の委員会を作り、新憲法の策定作業を進めた。その委員会の中に二十二歳のベアテさんがいた。ベアテさんの抜群の語学力と、日本の状況に詳しいことが買われたためである。
 ベアテさんはまず、東京上野の国立図書館に行き、世界各国の憲法についての資料を借り出した。この資料はほかのメンバーにも重宝がられ、ベアテさんの名は民生局内で有名になった。こうして九日間で憲法案が策定されるのだが、ベアテさんは社会保障と女性の権利の条項を担当。世界各国の憲法から最高と言える条項を抜き出し参考にし、女性の権利条項を書いた。ベアテ原案は、あまりに詳細だったため、カットされ、結局二十四条に結実することになるのだが、これは当時の世界の憲法において最先端ともいえる両性の平等条項だった。
 女性の権利は、日本側としては「驚愕」的な内容で、異論も出るが、ベアテさんが「自分は日本女性の地位の低さを知っている」と言い、日本側が反論できなかった話は有名である。そのほかのやり取り、あるいは、GHQ案を日本語に翻訳する作業でもベアテさんの能力の高さは双方に深く印象付けた。
 さらに、ベアテさんが日本の習慣等に詳しく、日本側の見解をGHQに伝えることで、日本政府の代表も非常に喜び感謝された。  帰国後はニューヨークに住み、ジャパンソサイエティなどで日本の文化をアメリカに伝え続けた。
 生涯を通して日本の民衆、日本女性の「友」であった。
 日本国憲法二十四条のことは当時自分が二十二歳とあまりにも若く、若さが問題にされることを恐れて長い間語らなかったが、九〇年代になって発言するようになり自伝も出版、日本で数多くの講演を行った。

 〈受賞〉
一九九七年 エイボン女性大賞
二〇〇五年 赤松 良子賞