女性「9条の会」ニュース23号 2012年10月号

特集  学習会「自民党憲法改正草案の検証」のご報告

 
  お話しする千葉恵子さん 会場風景

 

1~3

憲法改正を巡る状況~自民党憲法改正草案について その一

 七月二七日午後、女性「九条の会」の世話人で、 弁護士の千葉 恵子さんから、新しく出された自民党の憲法改正案についてお話を伺いました。
 この改正案は、二〇〇五年に自民党が出した改正案に比べても、著しく「右傾化」しています。これは、近頃出てきている改憲案に共通の傾向で、以前の改憲案が、ソフトな改正案で憲法を改正しやすい環境を作り、(九六条の改正)、その上で、さらに改憲という計画でしたが、今回は、一気に大改正を、という強硬な姿勢です。自民党は猛烈な改憲論者が主流で、殊にその最右翼の安倍晋三氏が総裁になったことで、大攻勢をかけるでしょう。その意味でも、タイムリーな企画でした。
 この号では、講師の千葉恵子さんが、自ら講演内容を元に執筆しています。
 二〇一二年四月二八日,自民党が憲法改正草案(以下「草案」といいます)を発表しました。
  草案についてはまず、憲法がどういうものであり、改憲勢力がそのどこをどのように変えようとしているかを知る必要があります。私は、この間、草案の検討をするにあたり、憲法を何回か読みましたが、改めて憲法のすばらしさを再認識しました。憲法の理念・原則の概要は以下のとおりです。特に草案との関係であげてみます。
(一)立憲主義((前文、十一条、
   十三条、九八条、九九条)
(二)国民主権(前文、一条、四一条)
(三)平和主義(前文、九条)
(四)人権尊重(前文、十一条、
   十三条、第三章)
 立憲主義とは、言葉からはわかりにくいかも知れませんが、個人の権利、自由を確保するために国家権力を制限することです。憲法の本来の目的は個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限することなのです。
 国民主権、平和主義、人権尊重も一見すると関係しないようにも思われます。しかし、民主主義政治のもとではじめて人権保障が確立するという意味で基本的人権の保障は、国民主権の原理と結びついています。
  また自由は、人間の尊厳の原理なしには認められませんが、国民主権、すなわち国民が政治体制を決定する最終かつ最高の権威を有するという原理も国民全てが平等に人間として尊重されてはじめて成立します。
 人間の自由と生存は平和なくては確保されないので、平和主義も人権及び国民主権原理と結びついています。
(『憲法 新版』芦部信喜著p三六~三七(岩波書店)
 
■憲法改正に必要な手続
 憲法を改正するにはどのような手続が必要でしょうか。
 憲法第九六条で各議院の総議員の三分の二以上の賛成で国会が発議、国民に提案し、その過半数の賛成で承認されれば憲法改正ができると書かれています。
 ただ、実際に手続をするには具体的な定めのある法律が必要ですが、そのような手続を定めた法律は六〇年以上作られていませんでした。
 改憲手続法(憲法改正国民投票
法)が成立したのは、二〇〇七年五月一四日、安倍内閣のもとでです。
その安倍さんが、問題があり首相をやめざるを得なくなり、自民党が政権を奪われ、そして、今回自民党の総裁となったことは、改憲を推し進めようとしている動きを感じます。
 なお、改憲手続法は成立時においても様々な問題があり、参議院で一八項目にわたる付帯決議があげられました。
 二〇〇七年八月七日、国会法一〇二条の六に基づき、衆参両院に憲法審査会が設置されました。
 二〇〇九年六月十一日には、衆議院で憲法審査会規定が制定されましその安倍さんが、問題があり首相をやめざるを得なくなり、自民党が政権を奪われ、そして、今回自民党の総裁となったことは、改憲を推し進めようとしている動きを感じます。
 なお、改憲手続法は成立時においても様々な問題があり、参議院で一八項目にわたる付帯決議があげられました。
 二〇〇七年八月七日、国会法一〇二条の六に基づき、衆参両院に憲法審査会が設置されました。
 二〇〇九年六月十一日には、衆議院で憲法審査会規定が制定されましたが、参議院では民主党の反対が強く、憲法審査会規定を制定できませんでした。
二〇〇九年八月三〇日、衆議院総選挙で民主党が圧勝し、政権交代がありました。
 二〇一〇年五月一八日には改憲手続法が施行されました。
 二〇一〇年七月一一日の参議院選挙で民主党が惨敗し、「ねじれ国会」となりました。
 二〇一一年五月一八日、参議院憲法審査会規定が制定されてからは、衆議院・参議院の憲法審査会が開かれるようになりました。特に、二〇一一年三月一一日以降は大震災を利用して国家緊急権という立憲主義を否定する条項を作るべき議論がありました。
 ①衆議院と参議院を統一して一院とするものや②憲法九六条の憲法改正の条文を変えようとするものです。

 それでは、二〇一二年四月二八日に発表された自民党、憲法改正草案について検討したいと思います。草案の内容については、自民党のホームページで憲法と草案の対比表が公開されています。参考になりますので、是非ご覧下さい。
 大まかに言えば、草案は次の傾向があります。
 ①立憲主義 → 非立憲主義
 ②天皇の元首化
 ③緊急事態による権利制限
 ④軍隊を外国に派遣できる体制
  づくり
 ⑤憲法改正要件の緩和
 では具体的に見ていきます。

■前文について
(一)憲法の前文は難しい表現だと言われますが、すでに述べたように国民主権、平和主義、自由の内容、諸原理の関係、そのような憲法が制定された過程などが格調高く書かれています。
 それに比べて「草案」は、自由、平和、国民主権などの単語はあるものの、その中身や他の原理との関係などが不明瞭です。
(二)草案には憲法にない「国民統合の象徴である天皇を戴く」という規定があり、ことさら天皇を強調するものとなっています。
(三)そして、「草案」は「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って」「良き伝統」などとし、特定の抽象的な価値観を述べており、自由主義・民主主義の原則から問題があります。
「よき伝統」は中身も不明瞭で色々な解釈が可能であり、憲法として不適切です。社会全体ともありますが、「家族」が助け合うというのはこれを強調すれば、介護、保育などの社会福祉を後退させかねません。
(四)憲法前文では平和的生存権が書かれていますが、「草案」では、平和的生存権は削除され、むしろ「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」と書かれ、穏やかな表現ではあるものの国民の国防義務が明記されました。

■第一章 天皇について
(一)草案第一条では「天皇は日本国の元首」と規定されています憲法の条文にはこのような規定はありません。
 元首とは国を代表する権限のあるものですから、天皇の元首化は特定の血筋の者が元首になるという意味から平等原則や国民主権からの問題
があると同時に、戦前のような国民を統合して強権政治を行う下地づくりと言え、問題です。
(二)草案第三条には国旗国歌の制定、国民の尊重義務が規定されています。
 天皇の章にこの規定があるのが象徴的です。
 日の丸・君が代が天皇制国家を象徴するものであることを草案が前提としていることは明らかです。これは特定の価値観の押しつけ、思想信条の自由を制約するもので、憲法でこのような規定を設けることは立憲主義・自由主義と相容れません。
(三)さらに草案第五条では天皇の行為についての制限となる、憲法四条で定めた「のみ」という限定を取り去り、天皇が国事行為に必要なのは「助言と承認」(憲法第三条)ではなく、内閣の「進言」(目上の者に対して意見を申し述べること)(草案六条四項)とされ、憲法には規定されていない公的行為が認められています(草案六条五項)。
 「草案」では憲法が規定する天皇の憲法尊重義務(憲法九九条)はありません(草案一〇二条)。逆に、「草案」には憲法にはない、国民の憲法尊重義務が定められています(草案一〇二条)。「草案」の天皇が国民の上に君臨し、天皇は憲法に縛られず、国民が憲法に縛られるという立場は大
問題です。 次号で、憲法九条、一四、二四条の問題、国家緊急権の問題などについて述べたいと思います(続)。
         

    
■koramu 今こそ、草の根からの大護憲運動を!

 竹島、尖閣諸島の問題も絡まり、今急速に偏狭なナショナリズムの風潮が高まっております。先ごろの自民党総裁選、5人の候補者がそろって叫ぶ改憲の大合唱に、なに、これ!と思われた方も多いと思います。そして、5人のなかでも最右翼とみられる安倍晋三氏が総裁に選ばれました。彼は、「憲法改正に反対と思っているような横柄な国会議員は次の選挙で退場してもらいたい」と言い切り、次期衆院選で憲法改正を争点にする考えを示しています(10月1日朝日新聞)。
 次期衆院選で右派勢力が国会の大多数を占めたら――小選挙区制度の下では、国会はまことに危うい状況になるかもしれません。
 こんな中、9月29日、日比谷公会堂で「九条の会」の講演会が開かれました。1800人の参加で「盛会」でしたが、「九条の会」発足の時、有明コロシアムで
1万人の集会が開かれたことを思うとき、熱気は落ちているというか、高齢化と若い人が増えていないことを思わざるを得ません。改憲派の執念に比べ、護憲派の方は、各地で「九条の会」が7500もできているのに安心している観もあります。
 「九条の会」事務局長・小森陽一さんは、改めて、日本国憲法を守る草の根からの大運動を呼びかけました。「9条の会」はこの秋、憲法セミナーを連続して行うそうです。「女性9条の会」も幾つかの学習会を企画しております。各地域でも、様々な活動を企画してください。                       

4面

女性「九条の会」8周年のつどい

講演テーマ「今、日本国憲法最大の危機!

講師 高橋哲哉さん (東京大学大学院教授)

コカリナ演奏 黒坂黒太郎さん

オートハープと歌 矢口周美さん

日時 2013年3月9日(土)午後1時開場 1時30分開演

会場 会場武蔵野公会堂

 

■事務所が移転しました
 
 今年7月30日に下記に移転しました。明るく、とても良いところです。
 事務所が開いているのは月・水・金曜日の10:00~17:00です。
 お近くにおいでの際には是非お立ち寄り下さい。
 丸の内線 茗荷谷駅から徒歩6分です

      

物品販売へのご協力お礼とカンパのお願い

今年は1月から10月までに約300人の方から約130万円のカンパをお寄せいただきました。
 また、物品販売では120人の方に約60万円の利用をしていただきました。
 いま賃金や年金が減り、暮らしにくい経済の中で、賛同者の皆様が浄財をお寄せくださっていることに心から感謝申し上げます。  

 この会は、会費制ではなく、カンパだけで運営しています。経費は、事務所維持費、ニュース発行費、学習会やつどいの開催費、会議の会場費などで年間約250万円かかっていますが、年を追うごとに財政状況が厳しくなり、わずかな繰越金を切り崩して節約しながら運営しています。事務所を開ける日については、毎日から月・水・金曜日に減らし、出来るだけお金のかからない活動の仕方を心がけています。
 みなさまのご家庭の経済状況も大変なこととお察しし、大変心苦しいのですが、出来れば一年に一度、財布の許す範囲でのカンパあるいは物品販売にご協力いただけましたら助かります。どうぞよろしくお願いいたします。
 また、切手や書き損じのハガキがございましたら、カンパとしてお送りいただければ、大いに助かります。

 「憲法」が危ない今、私たち女性「九条の会」は、賛同者の皆様とともに、旺盛に活動を進めてまいりますので、どうぞよろしくご援助下さいますようお願いいたします。
 カンパの領収書はニュース発行の際に同封させていただくことにいたしましたので、どうぞご了承ください。