女性「9条の会」ニュース22号 2012年6月号

特集  学習会「議員定数削減と選挙制度」のご報告

 
  お話しする坂本修さん 会場風景

 

1面

楽しく、したたかに「女子力アップ」  笠井 貴美代(女性「九条の会」世話人)

 「高給より社会貢献」―アメリカの名門大学卒業生の就職観が変化しているという。昨年9月、ウオール街に始まった格差解消を求める「99%占拠運動」が影響を与え、給与や待遇とともに社会貢献を職選びの条件にする学生が増えていると朝日新聞の記事(2012年6月20日)は紹介している。
 「社会に目をむけ、なにかしたい」との思いは日本でも昨年の3・11東日本大震災後、ひろがっている。毎日のように「原発はいらない」デモのよびかけがツイッターでとびかい、再稼働を許さない行動が続いている。「わが子を放射能から守りたい」の一心でひろがる「お母さん革命」パワーは、自治体や国を動かし、18歳以下の医療費無料化を実現させた。
 震災後の意識・行動の変化についての調査(ライフネット生命保険、2011年2月、6000人)では、社会貢献への意識が21・5%から32・2%へと上昇し、性別では震災前の男性22・8%、女性20・0%が、震災後は男性35・2%、女性41・3%へと男女が逆転、女性の意識の高まりを指摘している。
 私の所属する新日本婦人の会は今年、創立50年を迎え、草の根で記念運動にとりくんでいるが、女性の反応が積極的だ。各党の党首にあてた「私は言いたい!」カードに、街頭で足を止め、消費税増税反対や年金・子ども手当削減への怒りをぶつけ、思いの丈を書き込む女性が後を絶たない。それをそのままファクスで届けている。野田首相の出身地、千葉・船橋では子ども連れで「おひざ元デモ」がとりくまれ、「地元が恥ずかしい」との声がかかる。
 そして、女性たちの集まりは楽しい。「食べて学んで女子力アップ」とおいしいランチを食べながらジェンダー学習にとりくんでいる。
 こうした女性たちの草の根からのエンパワーメントこそが、悪政を追いつめるたしかな力となって、世界につながっていると確信する。                                                  (新日本婦人の会会長)

 


選挙制度を考えることの大切さを学ぶ

 学習会は、弁護士の坂本 修さんをお迎えして、二〇一二年五月一七日の午後、津田塾大学同窓会 会議室で行われました。
 これからの日本の行く末を大きく左右する選挙制度のあり方を真剣に考え、行動していくことの重要性とともに、九条を守り、憲法の生きる社会にしていくためにも、多くの人と「選挙制度」の問題を共有していくことの大切さを、強く感じる学習会でした。
 しかし 選挙制度という、本来私たちの生活に密接に関わる問題にかんしての関心は決して高いとは言えず、残念ながら学習会への参加者も三〇人足らずでした。(内容は二〜四ページにまとめました)

2面〜3面
    
■ 今、国民の声は聞いてもらえているか

 TPP反対は全国民の大多数の声だ。消費税値上げ反対も多数派。国民の絶対多数は原発の再稼働に反対だ。それが私たち国民の声なら、なぜ国会はそうならないのか。 ワーキングプアが増え、非正規が増え、平和の問題では、相次ぐ「戦争立法」が作られ、イラク派兵が行われたが、それらに反対する政党の議席は一六議席しかないのはなぜか。国民の声が届かない選挙制度の問題点をしっかり見極めて、それがどう変わろうとしているのか、どう変えなければいけないのかを考えることが大切だと思う。基本的人権に基づく選挙権は当然平等な価値があり、一票は平等でなければならない。だからこそ、国会は国権の最高機関として、国会を中心に国政は動いている筈なのだ。

■ 小選挙区制導入への歴史的経過
 
 一九五〇年 朝鮮戦争を機にアメリカ占領下にあった日本は、松川事件や三鷹事件などの事件とともにレッドパージなど、歴史の転換期を迎える。日本の政治活動の自由は大幅に制限される。
 一九五五年 鳩山一郎氏が「憲法自主制定」に必要な三分の二を確保するために小選挙区制を提唱するが、国会での賛成は得られず、断念する。
 一九八八年のリクルート事件に続いて、一九九二年には五億円のヤミ献金が金丸信氏に送られた佐川急便事件が発覚し、政治不信が高まる。その結果自民党が割れ、割れた自民党と日本新党など、七つの政党ができた。この七党と一会派が、政治改革の名のもとに団結をして自民党と対峙する構図になる。国民が政治に求に求めたのは「政治資金の透明性の確保」と「政治家の倫理の改革」であったが、それを「政治改革」という言葉にすり換え、「選挙制度改革」に変えていった。「政治には金がかかり過ぎる。それは選挙区が広すぎるからだ。制度を改革し、選挙区を小さくすれば金もかからない。これが政治改革だ」というわけである。
 マスコミは、四〇年前には、小選挙区制には反対の立場をはっきりさせていたが、賛成に変わった。この時のマスコミの論調は「政治改革と、構造改革をおこなって、新自由主義を導入すれば日本の経済は活性化できる」「政党助成金として政党に多額の金を与えることで、賄賂を取る政治は消える」「小選挙区制にすると劇的に議席が左右に動き、政権交代が実現して健全な二大政党が生まれる」というものであった。 
 一九九四年 小選挙区三〇〇議席、比例代表二〇〇議席(後に一八〇に)の並立制が採用され今日に至る。 四〇年前は「小選挙区制」と「憲法改正」は一体のものだったが、それで失敗したことを踏まえ、「違憲」の「既成事実」を積み重ね、それに国民を慣らしつつ、巧妙に「小選挙区制」を導入して「民意との乖離」を拡大させてから、「憲法改正」を目ざすという手法が取られていった。 
 
                        

                 三つの選挙制度による得票率と議席数・議席獲得率        
                       
政党 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党 国民
新党
新党
日本
みんな
の覚
諸派・
無所属
 
480議席をすべて比例配分した
場合(完全比例代表制)
204 128 55 34 21 8 4 20 7  
  小選挙区得票率 47% 39% 1% 4% 2% 1% 0% 0% 4%  
小選挙区議席率 221 64 0 0 3 3 1 2 6  
実際の総選挙
(比例定数=
180)
(現行制度)
(同議席占有率) 74% 21% 0% 0% 1.00% 1% 0% 1% 2%  
比例得票率 42% 27% 11% 7% 4% 2% 1% 4% 1%  
比例議席
(同議席占有
率)
87 55 21 9 4 0 0 3 1  
48% 31% 12% 5% 2% 0% 0% 2% 1%  
小選挙区・
比例合計
議席合計
(同議席占有
率)
308 119 21 9 7 3 1 5 7  
64% 25% 4.38% 2% 1% 1% 0% 1% 1%  
比例定数が
100に削除され
た場合
比例議席 53 30 10 4 0 0 0 2 1  
比例と小選挙区
合計議席
274 94 10 4 3 3 1 4 7  
議席占有率 69% 24% 2,50% 1% 1% 1% 0,25% 1% 1,75%  
                       
                       
                       
                       

 

■ 小選挙区制のからくり
 上の表は三つの選挙制度による得票率と議席数・議席獲得率をあらわしたもので、得票率からいうと民主党は204議席、ところが実際には308議席も取っている。自民党は128議席の得票率のところ119議席、公明党は55議席あるところを21議席、共産党は34議席ある筈が9議席、社民党は21議席のはずが7議席しかありません。社民党の7議席は小選挙区で3議席を得ていたのです。民主党の得票率は、小選挙区では4割台、議席占有率は7割台。これが国民の民意とはかけ離れた議席を作り出しているのです。



■ 「民意」と「財界の圧力」のせめぎ合い
安倍元首相は自分の任期中に九条改憲を実現すると言った。その当時彼は、日米軍事同盟が柱だとした上で、「日米軍事同盟というのは流血の同盟なのだ」とはっきり文書で言っている。そして「戦後レジーム(制度)はもう古い。最もダメなものが憲法九条だ。だから変える」と言って、これを選挙の第一公約にした。しかしこの時の参議院選挙で自民党は歴史的敗北をした。 民意のもっとも大きな変化は、〇九年選挙での政権交代だった。日本の戦後史の中で、こんないびつな選挙制度の中で、初めて選挙によって自公政権を倒したことは画期的なできごとだ。民主党は、新自由主義、構造改革を批判して「生活第一」を第一スローガンに掲げ、後期高齢者医療制度の廃止、派遣法の抜本改正、アメリカとの対等な関係、普天間基地の県外撤去を言って勝った。本当に民主党が頑張ってこれらが全部通ったら、国民は自分の一票で政治が動くということを政治経験として掴めたに違いない。
 しかし、それは財界もアメリカも絶対に認めてはならないことだった。だから強圧を加えて裏切らせた。残念ながら民主党はもろかった。圧力に負けて公約は何も実現できず、次の参議院選で民主党は大敗した。民主党だけでなく自民党も負けた。日経新聞は「国民は二大政党政治に対して審判を突きつけた」と書いている。

■ 三・一一で明らかになった矛盾
 地震の巣であるこの国に五四基もの原発をつくり、安全神話をばらまき、原子力ムラをつくって、金を貰い、選挙も助けて貰ってやってきたこの国の政治は何だったのか。それでも「間違っているから一刻も早く原発をなくすために全力を傾けます」と言うかと思ったら、再稼働させるという。
 今多くの国民が、自分たちの声の届く政治にしようとして動き出した。 脱原発の運動には二〇代三〇代の人が動き出している。子育て世代は生活に追われて政治に目を向けるゆとりはほとんどなかった。けれども放射能が自分の子どもをダメにするという時に立ち上がらない人はいない。放射能の問題によって、今まで政治に関心を持たなかった人たちが、この国を考えるエネルギーになってきていると思う。「脱原発」「TPP」「反消費税」「社会保障の充実」「教育の充実」などの要求が、幾重ものうねりになってきている。 
 こうした要求に応えるのではなく、財界側が考えたのは、選挙制度を変えて要求をつぶしてしまうこと。比例定数削減八〇というわけである。

                        

            衆院の比例定数が80削減された場合の比例各ブロック別各党推計議席    
ブロック






A  


 
定数の変化 (8→5) (14→8) (20→11) (22→12) (17→9) (11→6) (21→12) 〔29→16) (11→6) (6→3) (21→12)  
民主党 3 4 6 6 4 4 7 8 3 2 6 53  
自民党 1 3 3 3 3 2 4 4 2 1 4 30  
公明党   1 1 1 1   1 2 1   2 10  
共産党       1 1     2       4  
社民党                       0  
みんな     1 1               2  
撰民新                       0  
新党日本                       0  
新党大地 1                     1  

■例定数を80削減したら民意はどうなる?

この図は、比例定数を80削減したとき、議席占有率はどうなるかという数字で、公明党は10議席、2.5%まで下落。共産党は7%から4議席に減って1%。社民党は0.75%。これは小選挙区の3が残ればという話で、残らないから0%。合計すると、30%の得票率を持っている公明党以下の中小政党は合算しても議席占有率は8%にしかならない。そして民主党と自民党が92%
の議席占有率を持つことになる。この制度はそうなる毒を持っている制度なのだ。
「反比例定数削減」は大事なスローガンだ。しかし、変化球もあり得ると考えた方がいい。私たちはどんな変化
球も打ち返す必要がある。「削減40でどうか」とか「一部連用制」でどうかという話になって、後手に回るこ
ともあり得るからだ。民意を正しく反映する選挙制度の改革をみんなで求めることが大事になっている。

■小選挙区制を押し変えそう!

マスコミは今〇増五減ということで、最高裁から指摘されたことだけをちょっとだけ手を入れようと宣伝している。にもかかわらず、内閣府の「平成二三年度社会意識調査」を見ると、「国政に民意が反映されていない」が八一・五%。マスコミの世論調査では「選挙制度抜本改革」がTBSで六二%、日経ビジネスで七五・二%に達している。マスコミが〇増五減の方向に誘導しているにも関わらず、国民は抜本改革だと言っている。 もう一つ、保守陣営からも小選挙区制に反対する意見が出てきている。小選挙区制を強行突破させた細川さんや河野洋平さんは、押し通したことを悔いる発言を朝日新聞に載せているし、自民党の谷垣総裁も「現行制度は大量の新人が入って来て、次の選挙で大量にいなくなる。これでは政治家が育たない、中選挙区制にした方がいい」と発言。超党派の「中選挙区制度を考える議員連盟」は一六〇人近くに達しており、自民党、民主党、公明党、共産党からも入っている。小選挙区制の問題点を政治家も認識し始めているということだ。 議会制民主主義が大事だということ、私たちの一票は人権だということを確認し、今度こそ、単に改悪を防ぐだけでなく、私たちの一票が生きる選挙制度に抜本改革する、私たちの声が本当に届く、そして私たちがおこなっているたくさんの要求運動と国会が響き合って前に進む、そういう国会にすることができるかどうかに、勝負がかかっていると思っている。
 そうした制度にすれば女性議員の比率も大きく向上することになる。

 

お薦めします    
坂本修著『比例定数削減か民意の反映か』   ─明日のための今日の選択─  定価350円

比例部分が80議席削減されたら、民主・自民が92 %を獲得、残りの8%を公明・共産・社民などで分け合うことになり、民意が抹殺されてしまうこと、小選挙区制そのものにも、小政党をつぶすカラクリがあることをこの本は教えてくれます。
 坂本さんは「抜本的に選挙制度を改革するための運動が必要」と熱く訴えておられますが、九条を守るためにも、ぜひ一読されることをお薦めします。
   新協出版社 FAX 03-3814-7773

■若者向けリーフ大好評!
 「おおさか女性9条の会」は、毎年五月三~五日の三連休に大阪北区の中之島公園で行われる「中之島まつり」に参加し、署名を集め、手作りの9条グッズを販売しながら、三日間で50万人以上といわれる来場者に、「憲法九条を守り、憲法を暮らしの中に活かしましょう」と呼びかけています。女性九条の会が作成された若者向けリーフが無料で入手出来ると知り、これは活用させてもらわなければと早速300部申し込み配布ました。表紙の可愛い幼児の顔が人を惹きつけます。「この子たちのために憲法守って平和で豊かな日本を!」と呼びかけて手渡すと、大変受け取りが良く、多くの人が笑顔でリーフを開いて中まで読んでくださいました。配布する私達もデザインの良さに嬉しくなり、イキイキ活動出来ました。
 地域の9条の会にも紹介しますと、ここでも大変な評判で、追送してもらった700部が短時日でなくなりました。配る人受け取る人、だれをも笑顔にするあどけない幼児の表情、わかりやすい条文の解説、人々の心に素直に入っていく表現、こんな宣伝物が欲しかったと大好評でした。「女性九条の会」のみなさん有難うございました。                おおさか女性9条の会事務局長 野﨑 きよ

■カンパや物品を購入して下さってありがとうございました
 2011年1年間のカンパおよび物品購入は、302名の方にご協力いただき、カンパ額は156万8330円でした。行事の開催やニュースの発行などに大事に使わせていただきます。
 なお、これまでカンパを頂戴した方にはハガキで領収書をお送りして来ましたが、経費節減のためにこれからは、振込み控えで代えさせて下さいますようお願いいたします。