女性「9条の会」ニュース15号 2010年6月22日号

          女性「九条の会」学習会に九〇人
 テーマ 「女性差別の撤廃をめざして」 ー憲法は生かされているか? 

 記念学習会は、四月三日午後、市川房枝記念館に於いて、浅倉むつ子さん (早稲田大学教授)と中野麻美さん(弁護士)を講師に、女性「九条の会」の世話人である志田なや子(弁護士)をコーディネーターに、開催いたしました。
にあることを感じる」という司会の本尾良の挨拶にはじまり、講師陣からは、国連女性差別撤廃委員会より出された最終勧告の内容や、選択議定書の批准の大切さ、また現在女性労働者が置かれている深刻な状況などが熱く語られました。また、今回は労働問題を中心とする内容でしたので、個人加盟の労働組合、商社ウィメンズユニオンに協賛団体になっていただきました。       

  国連女性差別撤廃条約の30年                 浅倉むつ子さん (早稲田大学教授)

 

女性差別撤廃条約の特色と展開
この条約の特色として、「法律上の平等というだけでなく、政治的、社会的、文化的な男女平等をめざしていること」「国の義務だけでなく私人(個人、団体、)の差別も撤廃しなければいけないこと」「暫定的特別措置を奨励していること」が挙げられる。しかし、30年前には問題として認識されていなかった「女性の性器切除」「戦時下に於ける集団レイプ」「ドメスティック・バイオレンス」など、さまざまな暴力の問題が85年のナイロビ会議で浮上して議論になり、93年に「女性に対する暴力撤廃宣言」が制定された。
 99年にはあらたに「選択議定書」を制定、自国で救済されない権利侵害の救済への道を拓いた。「選択議定書」には「個人通報制度」と、国家が見過ごしている重大な権利侵害をキャッチして調査し、その国に是正勧告を出す「調査制度」の二つの制度がある。
日本が条約を批准をしたのは85年、その時に3つの法改正があった。「国籍法」の改正、「男女雇用機会均等法」の制定、「学習指導要領」の見直しなどが行われたが、「選択議定書」は未だ批准していない。

女性差別撤廃委員会(CEDAW) と日本
 条約を批准した国は4年に一度政府報告書を提出する。その報告書を審査するのがこの委員会で、締約国には報告書の中での疑問点や、重要なポイントをあらかじめ示して、政府からの回答をもらい、NGOからの意見も聴取する。
 日本では1回目の審査が90年に行われたが、「女性だけが取得する育児休暇は女性に対する差別」「夫婦別姓 を認めないのは間接差別」などが初めて指摘された。2回目審査(94年)では傍聴するNGOも増え、ロビー活動もすることができた。総括所見制度もはじまり簡単な文書が付くようになり、それを次回の報告書に生かすことができるようになった。
  3回目の審査(03年)では、JNNC(女性を取り巻くさまざまな問題に取り組むNGOのネットワーク)を組
織化し、山下泰子さんが日本全体のNGOを統括して、問題点を網羅した報告書をCEDAWに提出できるようになった。3回目までの審査の影響は大きく、「女性に対する暴力」「DV法」「ストーカー規制法」「被害者保護に関する刑事訴訟手続きの改正」が行われた。「育児休業法」の制定、「均等法の間接差別禁止規定」などの法改正にも貢献したように感じている。


第4回目の審査
最も特徴的なのは「総括所見のフォローアップ」で、「選択的夫婦別姓採用のための民法改正への早急な対策」と、「女性の雇用や、政治的・公的活動などへの女性の参加を引き上げるための数値目標と、スケジュールを持った“暫定的特別措置”を採用すること」という二つの勧告の実施に関して、何らかの答えを2年以内に文書にして出すことを求められたこと。このフォローアップ項目が付いたのが、今回の最も重要な総括所見の特色と言える。

日本の裁判所による国際人権法の扱い
 「自動執行力が認められない限りは条約違反とは言えない」というのが、日本の裁判所の考え方で、最近行われた3つの裁判でも、「国際条約は、国際社会のあるべきルールを宣言しているに留まり、具体的に誰が見ても違法だということが明らかであるような規定がないから自動執行力を認められない。」として原告が敗訴した。つまり、日本ではほとんど全ての国際条約は日本には適応しないと判断されてしまうのである。また日本は、国連の勧告に従うことは、司法権の独立が侵害されることであるとして、「選択議定書」を批准しようとしない。しかし、批准している多くの国には司法権の独立権はないのかというと決してそんなことはないので、その理屈は通用しない。そこで前政権は、最近は“国家が損害賠償をされたらどうなるのかを解決しない限り選択議定書は批准できない”という言い訳をして批准を拒否していた。
 政権が交代して、千葉景子さんが大臣の就任挨拶で「選択議定書を批准します」とおっしゃっているのだが、残念ながら今国会の成立は無理なようだ。

 

         労働分野における性差別の現状と課題   中野 麻美さん(弁護士) 

貧困労働
 政府が発表したデータによると、02年の段階で雇用労働者の中で年収250万円未満の人たちが全体の4人に1人にのぼっている。男女別に見ると男性は10人に1人、女性は2人に1人である。

男女雇用機会均等法の問題点
均等法が国会を通り、審議会で指針を議論している時に、山野和子さん(元総評女性局長・労働者代表として均等法策定に尽力)から見せられた案には、「募集・採用区分ごとに男女で均等な取り扱いをするように」と書かれていた。そのようなことは国会の審議には出ていなかったし、公のところでは議論されていなかったので、山野さんも予想はしていなかったに違いない。彼女は「これでパートが増える。そして女性たちは低賃金労働に追いやられていく」と言った。
 70年代の終わりにまとめられた「男女平等問題専門家会議」での報告書に、経営側からの議論が紹介されている。「日本は日本型雇用管理を雇用慣行として築き上げてきている。それは全社的な人事ローテーションの中で社員を教育して登用していくというシステムを組み立てている。その中に女性を組み込むことはできない。現状の性役割から、全国どこへでも転勤してくれというのは無理があるし、そもそも女性の勤続年数は一般的に短いので、女性を投資の対象とするわけにはいかない」というものである。実際、「コース別雇用管理」に関する訴訟の中で、経営側は資料として報告書のその部分を提出して裁判所に理解を求めるようになるのである。均等法を通すときに、経営者団体との間で何がしかの暗黙の了解があったのではないかと私は疑っている。

均等法によって強化された差別
 ある人が「女性は登用されるようになった。しかし、一部の女性が登用されることによって差別は強化された。」と言ったが、私も同感である。つまり一部の女性を登用することによって、他の女性たちは努力が足りないという烙印を押される。そして「あなたのやっている仕事は派遣のお仕事」とか、「転勤ができないのならパートに変わってください」と言われて退職を余儀なくされたり、常にニーズに応えられているかどうか戦々兢々としながら仕事をしなければいけないように仕向けられる。こうして自分に自信を失い、上司に対抗する力や、周りから自分を守る力を削がれていき、正社員女性が退職を余儀なくされる事態が進行していく。

法制化された「登録型労働者派遣」
 労働者派遣は均等法より前から議論されていた。三角関係の働き方で商取引きを内部に含んでいるため、労働者の権利が低く規定されることが懸念されることから、常用型(仕事があろうがなかろうが雇用する形態)で、しかも許可制が原則だった。それが85年の均等法制定直前になって、「登録型で許可制で」という形が出てくる。根拠として、“子育て中の女性や、全国転勤はできないけれども、スペシャリティを持って働きたい女性は登録型で救われる”という考え方で導入していった。総評でも登録型を認めた。しかし、専門性が確立されて、一定の雇用管理の下でしか認めないということで13業務に限定されていた。ところが、95年の法改正によって、登録型派遣の業務が拡大され、男性たちの間にも広がっていった。

格差・差別を利用した労働の買い叩き
 非正規雇用労働者の賃金が急激に今落ち込んでいる。その典型が労働者派遣である。登録型派遣は派遣元と派遣先の間の契約によって労働条件が規定される。料金の中からマージンを引く。マージンは3割ぐらいが平均的だと言われているが、5割を越えるところもあった。ところが最近は競争関係の中で、マージンも取得できない、労働者の賃金も急激に下がるという状況が拡大してきている。翻訳、通訳は最も専門性が発揮できて、高額な料金でやり取りできる業種で、以前は時間あたり4000円ぐらいの求人募集だったが、今は2000円を割っている。全ての業種で半分に減っている。

パート、家計補助的労働という差別
 「仕事と家庭を両立させるために、女性は企業との結びつきが弱い」という、女性たちが均等法によって切り分けられた論理が、パートに凝縮されて表現されるようになった。「家計補助的労働であるからパートの賃金は低くて良い」という考え方の中に「性差別」という非常に根源的な問題が含まれていることに、私たち自身が実感として肌で反応できるようにならないと、この格差はなくしていけないように私は思う。

性差別賃金
 女性の労働は、とかく低く評価される仕事に集中させられる。そういう仕事の違いを理由にして「あなたの賃金はだから男性と比べて低いんだ」と言われたときに、「それが差別なんだ」という洗い直しを徹底的にやる必要がある。
 「性差別賃金とは何か」ということを社会的に明らかにして、女性たちが自信と誇りを持って職場の中で主張し生きていけるように、そして、そこの部分で何をなすべきかということと、だからこそ賃金是正をどんな形でやっていくのかを、2段階で整理して理論化していく必要があると思う。そこをごっちゃにして同一価値労働・同一賃金と言ってしまうと、男性から反撃をくらってしまう。それを社会が納得できるような形の論理で組み立てて行くことが必要ではないか。間接差別の方にもやはり同じような取り組みが必要になってくると思う。緻密な論理性と説得できる可能性とはとても大事なことになるんじゃないだろうか。