女性「9条の会」ニュース14号 2009年12月16日号 

私の決意

 六八年前の一二月八日、小学校三年生の私はラジオを通して流される米英との戦争開始のニュースを聞いた。朝礼で、校庭に整列した全校生徒に向かって、校長先生が重々しい声で訓示をされた。「子供といえども、この戦争に勝ち抜くためには心を引き締めて決意新たに過ごさなければならない」というようなことを話されたのであろうか、それに応えるべく、夕食後に「今日からはご飯の後の食器洗いを手伝う」と宣言して、土間の洗い場で井戸から水を汲んでお茶碗を洗ったことを鮮明に記憶している。なんとも小さな決意であった。 
 「米英は鬼畜」の如き存在であり、「勝つ」ためには、「欲しがりません、勝つまでは」の標語も受け入れるべきと(もっとも、子供が欲しがるようなものを売っているような店も近隣にはなかったが)、根拠もなしに考えていた。同居していた叔母の信じるキリスト教もよくないのではないかとか、将来は「産業戦士」になると考えるなど、全く
の「愛国少女であった。ただ敗戦直前に、飼っていた数匹の兎を「兵隊さんの食料」のために供出させられたとき、泣いて人参を食べさせたことは忘れられない。
 しかし、連日の空襲警報に嫌気がさしていたのか、敗戦は不思議なほど淡々と受け入れた。価値観が一八〇度転換したことにも、あまり抵抗感がなかったのは、ものを考える力が足りなかったからであろう。
その後いろいろなことを知るにつけ、「どんなことがあっても戦争は絶対にしてはならない」という決意が心の奥深くに根づいた。一九四六年の一二月に教会の門を叩いたのは、奴隷のアンクル・トムや未開の地で伝道をつづけた無名のアメリカ人神父の生涯を描いた映画に深い感銘を受けたからである。
沈黙を続け、何の行動も起こさなかったならば、再び戦争への道を歩み始める危険性があることを肝に銘じ、キリスト教の立場からも平和の実現のために努力を続けなければならない。この決意に基づいて、今後も歩みを続けたいと思う。
                    江尻 美穂子(日本YWCA会長・女性「九条の会」呼びかけ人)

2〜3〜4面   特集

        政権交代でくらしは?憲法は?   
渡辺 治さんの講演会から

 

講演会は11月16日(月)午後1時30分から、東京都消費生活総合センターに於いて開催されました。参加者は94名。 前もってFAXで送られた質問に加えて会場からの質問も多く、会場は真剣に聞き入る人たちの熱気で溢れました。

総選挙の結果は何を示したか

小選挙区効果
8月30日の衆議院選挙では、民主党308議席、自民党119議席という結果になり、政権が交
代した。自公の政治はひど過ぎるが、日本共産党や社民党に入れても小選挙区では当選しない、確実に票の取れる民主党に入れれば、少しは変わるのではないかと考えて、民主党に入れる人が多かった結果だ。しかし、この議席数は民主党に政権を取ってもらいたいという人たちの得票率を遥かに上回っている。小選挙区制の効果である。
 小選挙区制は、得票を取った以上に第一党の議席が大きく増大し、他の政党は得票率通りには議席を取れないシステムになっている。480議席の内の300議席が小選挙区で、定員は1人。定員が1人ということは、第一党を取った政党が21%であったとしても、次点以下の票は死票になるので、その政党は、得票よりも遥かに多くの議席を獲得する。決して民主的な制度ではない。
 480議席が得票通りの議席であった場合は、民主204、自民18、公明55、共産34、社民20、みんなの党20、国民新8ということになり、民主党は社民党、国民新党と連立を組んでも過半数は取れないことになる。

7割のお風呂
 自民党が大勝した時の民主党との票の合計は62.5%、今回は69.1%で全く変わっていないことを忘れてはいけない。この間の大きな動きは、自民党と民主党の間で行ったり来たりしているだけだ。私はこれを7割のお風呂と言っている。国民の7割は自民党と民主党のお風呂に入っていて、熱くなると民主党に移動するけれど、お風呂の中で移動しているだけで、お風呂から出て、反構造改革や護憲のお風呂に入るということはしない。護憲のお風呂は残念ながら12%ぐらいの小さなお風呂でしかない。

自民党離れの要因

①構造改革の矛盾の爆発
 冷戦が終わり、世界の大企業同士の激しい競走が始まると、日本は、賃金や法人税の安い国との競争に負けないために、一気に法人税を引き下げ、企業のリストラ、地方の公共事業投資の切り捨て、社会保障の切り捨てを行った。その結果、10年間で500万人が首を切られ、500万人が不安定な非正規労働者になった。08年には多くの非正規労働者が派遣切りにあって職を失い路上に溢れるなど、貧困と格差が増大し、毎年3万人を上回る自殺者や、何人もの餓死者を出し、犯罪が増加するという形で、構造改革の矛盾が劇的に爆発した。マスメディアは「年越し派遣村」という新しい形の、反貧困、反構造改革の大衆運動に飛びつき、一斉に報道した。国民の間に「もう自公の構造改革は止めさせなければ」という気持ちが高まった。
②護憲運動の広がり
 「九条の会」の運動が全国に広がり、現在は7000を越す「会」が生まれている。地方の市町村長の首長が「首長・九条の会」を結成するなど、保守派の自衛隊賛成者たちも、九条を変えて海外に派兵することには反対するとして運動に参加するようになった。こうして08年4月の世論調査では、改憲反対の意見が賛成の意見を上回った。
③民主党の政策転換
 今まで構造改革を推進するといっていた民主党が反構造改革に変わった。選挙のために反構造改革を考えたのは小沢さんのすごいところで、2万6000円の子ども手当て、後期高齢者医療制度の廃止、高校授業料の無償化、農家個別保障制度という形で、構造改革に苦しむ地方や子育て家庭への支援をマニフェストに盛り込んだ。

民主党の体質

 構造改革を止めてもらいたいという多くの国民の声と、自民党を継いで構造改革を安定的に運営して貰いたいという声の両方の期待を集めて民主党政権は登場した。民主党はその期待に応えるだけの構造を持っている。民主党は一枚岩ではなく、3つの構成部分からなっているからだ。
●頭:鳩山、藤井、菅、千石、岡田などの執行部。
 民主党の中心で、構造改革を止めてもらいたいという声と、財界・アメリカの構造改革、軍事同盟を続けてもらいたいという声に悩みに悩んでハムレット状態になって、結果的には構造改革と軍事大国化をおずおずと進める状況になっている。この人たちは、自分たちが構造改革を変えてもらいたいという声によって政権を取れたことを充分に自覚している。改憲をやめて護憲の政党になってもらいたいということも充分自覚している。だから普天間の問題でも揺れる。しかし、圧倒的な財界とアメリカの圧力のもとで、鳩山は結局、国民の意思を踏みにじらざるを得ない。それは本当に日米同盟をやめ、本当に構造改革をやめて日本の経済と政治を立て直す自信がないからだ。
●胴体:小沢さんを中心にした多数派
 今まで自民党を何十年と支持してきたけれど地方の構造改革で公共事業投資を取り上げられ、もう支持できないという地方の財界、医師会、農協、地場産業の人たちを民主党に総取りしている。小沢さんは窓口を一本化して陳情は全部小沢幹事長の元に集中させる。自民党と官僚への接触禁止、医師会や農協は議員との接触禁止、全部幹事長室を通すとしている。 小沢さんは一心会という派閥を持っている。これが50人、新しく147人の議員のうちの100人を指揮している。九州の知事たちは自民党支持から転向して、民主党の小沢幹事長の元にくる。九州新幹線の駅を自分のところに持ってくるためだ。
● 手足:中堅国会議員100人ぐらい
 長妻さん、山口さんなどの多くの中堅の真面目な議員たちは、この間の構造改革の矛盾を見て、これではいけないということで、社民党や日本共産党の議員と接触するようになる。後期高齢者医療制度に反対する団体といっしょになる。そうすることで彼らは「マニフェストを実現したい。福祉の政治を実現したい」と考える。そして国民の支持を受ける。しかし、彼らは党の中では力を持たない。頭の言うことも聞かなければいけない。だから長妻さんは、「福祉のために子ども手当てをやる、派遣法を改正し、後期高齢者医療制度を廃止する」と言っているのだけれども、大きな攻撃を受けて、どれもだんだん言えなくなって、後期高齢者医療制度も3年後に新制度をつくってからだと言う。国民の声と財界の圧力の間で悩んでいる。

中堅議員への働きかけで民主党の方向は動く
 頭は右に、胴体は後に、手足は左にという形で今後の民主党政権は動く。左に行くのか後に行くのか右に行くのかを決めるのは、財界やアメリカが勝つか我々の運動の力が勝つかということになってくる。自民党は倒すしかなかった。しかし、民主党はそうではない。私たちの力が、中堅議員を通じて、頭の人たちに対しても、外から圧力を加えることによって変わる可能性がある。

改憲問題はどうなる?

 民主党は、護憲派の力のおかげで当選できたことを充分知っているから、改憲を言えばどうなるかは承知している。しかしアメリカの圧力は強い。アメリカの圧力と、国民の運動との力関係によっ
て、民主党の政策自身が揺れ動いている。明文改憲はおそらくないだろう。今年6月の通常国会で、自民党は「衆院憲法審査会規定法」を強行採決した。民主党は初めは賛成だったのだが、反対した。「改憲手続き法」も自民党と共同提案をするところまで行っていたが、運動の力によって反対せざるをえなかった。しかし、明文改憲はだめだが、アメリカの「自衛隊を派兵しろ」という圧力は非常に強いので、解釈改憲の道を選んで自衛隊を派兵させる可能性はある。米軍再編もアメリカ帝国の世界戦略の問題だから絶対に引かない。鳩山さんは粘ってはいるけれども、結局は沖縄の普天間基地の「移転」を認め、米軍再編を強行するにちがいない。こうすることでアメリカの圧力にも応えざるを得ないだろう。よほどの運動をしない限り、必ずこれはやって来る。

私たちは何をすればいいのか

3つの提言をしたい。
① 明文改憲について国民の力を示す
 解釈改憲をつぶす運動をやらないと、自公政権でもできなかったことが実現してしまう。私たちがよほど運動をつくらない限り、民主党政権で突破される危険がある。「アフガン派兵のための自衛隊派遣絶対反対」「普天間移転は国外へ」ということを強く言う必要がある。 
 方法はいくつかある。ひとつはメールやFAX作戦。秘書が読んでかなりの確立で伝えている。民主党は、自民党の議員よりは、はるかに聞く耳を持っている。都議会議員に対してもやっていく必要がある。個人で民主党に対して声を上げることが彼らに勇気を与えることになるのだから、構造改革に対しては長妻さんに、後期高齢者医療制度についても長妻さんに、安保の問題では、鳩山さんや岡田さんに「解釈改憲は許さない」という声を上げて行く必要がある。そして「改憲は自分の任期中はしない」「改憲手続き法を見直す」、「憲法審査会の立ち上げはしない」と明言させる。ここを詰めていくことが、明文改憲について国民の力を示すことであり、私たちの大きな課題になる。
② 憲法を実現するための運動に
改憲を阻止する運動から、実現するための運動に転換する時がきていると感じている。またそれをやらない限り本当の意味で改憲を阻止することは難しい。
 アメリカは1030回も核実験をやっている。1万発の核弾頭を持っている。ロシアも1万5000発の核弾頭を持ち、700回の核実験をやって来た。今やっているオバマとロシアの大統領の交渉は、地球を何百回も壊す力を、何十回か壊すために削減していこうという話でしかない。「核の使用を完全に禁止する」、少なくとも「核兵器の先制使用はしない」と約束させる。これがあってはじめて北朝鮮に対して、私たちは圧力を加えることができる。6カ国の中でそれができるのは、憲法九条を持つ日本だけだ。鳩山さんの言う「東アジア共同体」を実現するには、東アジアの平和保障がなければいけない。これは九条を実現することであって、私たちはその方向に前進する必要がある。
③観客から主人公に
 私たちが観客になっている限り、民主党に対する「第2歩に向けての私たちの運動」を起こすことはできない。私たちは観客から、私たち一人ひとりが主人公になる時代をつくっていく。それが憲法を実現するための大きな力になるということを訴えたい。

質疑応答から
Q 比例代表を減らすという民主党の主張はどういう狙いか?
A 比例議席180を100に減らすと、マニフェストにも書いてあるし、小沢さん、鳩山さんも主張している。その理由は、共産、社民をなくしたいということ。80減らすと、共産が3、社民が2になると言われているので、議会の中で、ほとんど力を出せない状況になる。つまり7割のお風呂を安定させるということだ。社民、共産の12%のお風呂をなくすと、アメリカと同じように日本も自民党か民主党かの選択肢しかないことになる。それは日本の民主主義と自由にとってマイナスだと思う。